受験生の死を描いた作者の思い
第6話の終わりがけには、公開授業を行ったその日が、左右田先生の一人息子の三回忌だったことがあきらかにされた。息子は生きていれば中学3年になっていたというから、13歳ぐらいで亡くなったのだろう。この場面からも『金八先生』のメインテーマが「生命の問題」であったとわかる。小山内によれば、さらにこのあと、雪乃の出産直後に、彼女の兄が東大受験に失敗して自殺するというショッキングな場面(1980年3月14日放送の第21回)を設けたのも、やはり命の尊さを訴えたかったからだという。
ただし、こうした展開になったのは、プロデューサーの柳井が、後半になって視聴率が毎週上がっていたのに乗じて、劇中で誰か一人殺せないかと不謹慎にも提案したのが発端だという。これに対し小山内は、生徒は誰一人死なせるわけにはいかないと猛反対するも、柳井が慌てる姿を見て、とっさに「死ぬのは雪乃の兄だと決まっている」と口走ってしまったらしい。
小山内に言わせると、本作で一番かわいそうだと思っていたのがこの兄だった。彼は人生の楽しみを一切遠ざけて受験勉強に打ち込みながらも挫折したあげく、自ら死を選んでしまう。小山内は、息子に先立たれて悲嘆に暮れる親の姿を描き、あえて死者に鞭打つことで「人間勝手に死んではいかんのだぞ!」と訴えたかったという。武田鉄矢もそんな脚本家の意を汲んで、金八が兄の死を生徒に伝えるシーンでは涙ながらに熱演してみせたのだった。
その収録で武田はスタッフから、撮り直すと子供たちが持たないから一発で成功させてほしいと言われていた。一方で子供たちは演出家に「よい言葉だと思ったら真剣に聞け、つまらなかったら聞かなくていい」と言われており、武田はますます追い込まれる。《だから、セリフが真ん中まで進んでゴールが見えてくると、涙が出てくるんですよ。解放されるっていうのもあって、気持ちがそれまでの倍くらい乗るんです。そうしたら子供たちの顔もどんどん変わって、泣きだすやつもいるんです》と彼は後年振り返っている(『週刊新潮』2019年8月29日号)。シーンを終えたときには、生徒全員が達成感から万歳したという。
『金八』シリーズ最高視聴率を記録
最終回(1980年3月28日放送)では、法律上はまだ結婚できない雪乃と保のため、クラスメイトらが卒業式後の謝恩会のなかで結婚式を開いてくれた。この回の視聴率39.9%は、その後の続編も含め『金八』シリーズにおける最高記録である。1984年には『金八先生』の第1シリーズから「十五歳の母」のエピソードを再編集した総集編も放送された。
さらに1995~96年放送の第4シリーズでは、第1シリーズの雪乃と保と同じ15歳になった二人の息子・歩が登場、あのときの産むという選択が正しかったかどうか、改めて問い直されることになる。「十五歳の母」が投げかけたテーマは、それほどまでに重いものだったといえる。