原因究明のため陸軍は北野に代わり、新たな調査チームを現地に送る。指揮を執ったのは、後に731部隊を率いる軍医の石井四郎(1892-1959)だった。石井ら調査班は三好野の店内を徹底調査しネズミを介して菌が運ばれたことを特定する。
店の天井にネズミ捕りを仕かけたところ4匹が引っかかり、その体内からゲルトネル菌が検出されたのだ。さらに天井裏には無数のネズミの死骸と糞が散乱、そこからも菌が検出されたため、調査班はネズミの糞が混入ルートと断定。さらに大福の打粉からもゲルトネル菌が発見されたことで事件は決着したかのように思えた。
なぜ和菓子屋の店主は無事だったのか?
残る疑問は一点。三好野の店主や従業員も同じ大福を食べているのに、なぜ無事だったのか。石井ら調査班は「店主たちが食べたのは製造直後でゲルトネル菌の量が少なかったため中毒にならなかったのでは」との仮説を立てる。
つまり、長時間放置すると菌が致死量まで増えるのではと考えたのだ。そこで、実験として打粉にゲルトネル菌を加え湿度30%、室温25℃の状態で保管。すると、菌は6時間後に500倍、12時間後には1万倍まで増加することが明らかとなる。運動会当日の最高気温は24.4℃。さらに大福は竹の皮で包まれていたため、菌がより増殖しやすい高温多湿の状態となっていた。
こうして大福の菌は致死量まで増加。結果、未曾有の惨事が引き起こされたというわけだ。