安全にも配慮してもらえず、実態は奴隷そのもの

 姜氏は2015年から、中国側の中朝国境地帯やロシア極東地方などを訪ね歩き、北朝鮮の人々の日常を捉えた約3000枚の写真を撮影した。姜氏が撮影したロシアの建設現場の写真には、コンクリートの床に置かれたマットレスが写っており、そのそばには建設資材が無造作に積み上げられていた。

雑然とした建設現場にマットレスが敷かれている=姜東完氏撮影

 姜氏は「北朝鮮労働者はよく建設現場に泊まり込み、そこで仕事をしている」と語る。シャワーも、洗濯用具もない。ロシア人からは「北朝鮮労働者は仕事を早く終わらせる」と好評だが、実態は奴隷そのものだ。

 北朝鮮労働者は安全にも配慮してもらえない。かつて森林で伐採作業に従事した脱北者によれば、伐採した木に押しつぶされたり、強烈な紫外線によって失明したりする労働者が大勢いた。死亡しても簡単に埋葬されるだけで、見舞金も出なかった。体に障害を負った労働者は、強制的に帰国させられたという。

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姜氏が接触した北朝鮮労働者の手=姜東完氏撮影

 姜氏が撮影した建設現場で働く北朝鮮労働者を見ると、誰も安全ベルトをつけていない。姜氏は北朝鮮労働者に接触し、彼の手を握った写真を収めているが、労働者の手は荒れて、ささくれだっていた。

賄賂を払うと外出が可能に

 ロシアに派遣された労働者は通常、集団生活を送るが、単独あるいは数人で住宅の増改築に従事するケースもある。かつて海外派遣を経験した脱北者によれば、彼らを管理するために派遣された、党や国家保衛省(秘密警察)、外貨稼ぎ担当の政府部署の責任者に労働者が賄賂を払うと、外出が可能になるという。姜氏も、こうして単独行動している北朝鮮労働者のインタビューに成功した。

建設現場で安全ベルトなしの北朝鮮労働者たち=姜東完氏撮影