北朝鮮が兵士をロシアに派遣したことが、国際社会の非難を浴びている。だが、北朝鮮兵士にとってはロシアへの「出稼ぎ」は旨みがある話ではない。ロシアの外国人傭兵に対する支給基準によれば、彼らは4600ドル(約69万円)のボーナスと月給2000ドル(約30万円)を受け取るが、そのほとんどが北朝鮮当局に上納されるとみられているためだ。
北朝鮮が唯一、輸出できるのは労働力だけ
韓国の北韓(北朝鮮)人権国際協力大使を務めた李政勲・延世大教授は「経済制裁のなか、北朝鮮が唯一、輸出できるのは労働力だけだ」と語る。その言葉通り、ロシア各地では北朝鮮兵士だけではなく、北朝鮮労働者が“輸出”され、労働にいそしんでいる。
韓国東亜大学の姜東完教授が今年6月に発表した写真集『Life in the Prison State(監獄国家での暮らし)』には、ロシア極東地方で働く北朝鮮労働者の写真が収められている。労働者たちは、海外派遣労働を「忠誠のための外貨稼ぎ」と呼び、劣悪な環境のなか、わずかな賃金のために働いている。
「外貨を稼ぐ貴重な機会」で海外派遣労働は人気
国連の北朝鮮制裁委員会は3月、北朝鮮が世界約40カ国に約10万人の労働者を派遣し、年間で約7億5000万~11億ドル(約1130億~1650億円)を稼いでいると報告した。韓国・国家情報院によれば、ロシアに今年派遣された北朝鮮労働者は4000人余りいるとされ、月給は約800ドル(約11万円)という。
ロシアでの海外派遣労働を経験した脱北者らの証言によれば、貴重な外貨を稼ぐ機会という理由で、海外派遣労働は人気がある。思想調査などで問題がないと判断されると、3~5年くらいの単位で海外に送られる。
証言をした脱北者らによれば、当初のロシアでの仕事は山林の伐採がメインだった。山林のなかに宿泊施設を作り、そこで集団生活を送っていたという。伐採の仕事が減った最近では、ウラジオストクやウスリースクなどの都市で建設作業に従事している。国連制裁決議により、2019年12月までに一部の労働者は北朝鮮に戻ったが、残留している労働者もいる。