伊与原 いつも驚いてばかりなんですけど、藤竹先生を演じる窪田さんの表情とか、目の動きだけで多くを語る技術には本当に圧倒されて。お会いしたときの小林さんは普通に明るくて飾らない若者でしたけれど、あんなに憑依するというか、小林さんの演じる岳人の喋り方、めっちゃ好きなんですよ(笑)。伊東(蒼)さんも立っているだけで佳純で、早口で喋れないのに、いろんな科学用語を解説させられる難しい役だと思うんですけれど、その塩梅がすばらしい。
吉川 小林さんをはじめとして、科学部メンバーのお芝居が脚光を浴びていますが、それは藤竹先生演じる窪田さんの存在があってこそだと思っています。自分自身は決して前に出過ぎることなく、皆の芝居をしっかりと受け止めて活かしてくれている。それでも作品全体のトーンを決定づけているのはやはり藤竹なんですよね。何か、記号的なものではなく、全体の流れの中でこそ重大な意味を成してくるようなお芝居――そのカットだけを取り出しても意味が捉えづらいけど、文脈の中に置かれると、藤竹の感情や行動の意味が立ち上がってきて、自然と前のめりに見入ってしまう。
藤竹はいいことももちろん言いますけれど、基本的にはにこにこ微笑みながら、科学部を見守ってくれている。こういう先生がいたら本当にいいですよね。藤竹のような“眼差し”は、本当はすごく大事なものだけど、現代に足りていないものなんだろうなぁと感じます。藤竹の眼差しに導かれて、科学部がどういうエンディングを迎えるのか、楽しみにしていただけたら!
窪田正孝さん演じる定時制高校理科教師の藤竹 ⒸNHK
最終回では会場のエキストラの目にも涙が!?
澤井 ドラマ『宙わたる教室』はプロットの初期の段階では、藤竹の告白(第9話「恐竜少年の仮説」)があった後に、1回ドラマのオリジナル回を挟んで、最終話(「消えない星」)へという流れでした。けれど、脚本を作っていく過程で話し合いを重ねる中で、やはり藤竹を深掘りするためにも、科学部の勢いそのままに大会へ進むという流れに変更されたんです。
吉川 最終回の舞台となる、日本地球惑星科学会の場面は、実際の大会でセッションや研究発表が行われる会場よりも、一回り大きい1000人ほど入る会場で撮影しました。それはそれで大変だったんですけど、ちっちゃい教室の片隅で生まれた科学部が、広い世界に触れていくという意味でも、広いところで撮りたいと思って……。ポスター発表についても、一枚、一枚を美術さんががんばって作ってくれたんです。今回のスタッフのだれもが作品に対する愛情がめちゃくちゃ深くて、最後の最後まで粘り強かったことにも、ずいぶん助けられました。
もともと2日間、撮影場所を押さえていて、エキストラさんも400人弱集まっていただいた大掛かりなものです。ただ、その人数の規模で撮影ができるのは1日目だけだった。それまではちゃんとシーン毎に埋めていくという撮影の仕方をしてきたんですが、翌日は50人ほどに減るので、とにかく1日目に広い絵と客席が映るカットを優先的に撮っていきました。