尹大統領は「戒厳令」を宣布した理由として、「野党による弾劾で行政が麻痺している」ことをあげていた。4月の総選挙で尹大統領率いる与党は惨敗し、野党が国会300議席のうち192議席を占める“ねじれ状態”に陥っていた。そして国会の多数を占めた野党は、尹政権に入って半年で22件もの弾劾を進めてきており、4日にも尹大統領の側近といわれるソウル中央地検の検事長らの弾劾案の票決が行われる予定だった。
また、予算案も野党によって約4365億円分が削減されており、尹大統領はそれを「国会は犯罪者集団の巣窟になった」「内乱を企てる反国家行為」と非難している。
「夫人をかばうために自爆したのではないかという見方が」
しかし、尹大統領が発表した「戒厳令」の内容をみると「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなどの一切の政治活動を禁じ」、「すべての言論と出版は戒厳司令部の統制を受け」、「社会の混乱を助長するストライキやサボタージュ、集会行為を禁じる」など、民主主義の根幹を脅かすものが並ぶ。
韓国は37年前の1987年に自らの手で「民主化」を勝ち取った国だ。63歳の尹大統領はそれを経験しているはずなのに、なぜこのような「戒厳令宣布」を選択したのか。前出の記者が言う。
「7日に大統領夫人のさまざまな疑惑について特別検察法の票決があり、夫人をかばうために自爆したのではないかという見方があります。今回の戒厳令については、大統領と同じ与党にとっても『理解不能』でした。与党の代表が即座に阻止に動いたことからも、それが窺えます。野党の弾劾で行政が滞っているという感覚は国民にもありますが、戒厳令という手段で抑え込もうとした大統領には怒りの視線が向けられている」
4日夜には大々的な「大統領退陣デモ」が行われ、世論は急速に尹大統領離れが進んでいる。
野党が国会に提出した「大統領弾劾案」は、国会議員200人以上の賛成があれば可決され、憲法裁判所が尹氏の罷免を判断することになる。野党議員192人の賛成は決定的で、与党から8人が賛成に回れば尹大統領は憲政史上3人目の弾劾対象者となる。弾劾訴追の票決は、7日の午後7時頃に行われる予定だ。
朴槿恵元大統領が弾劾で罷免された2017年から7年。韓国政局は再び大混乱に陥った。