昭和歌謡を文化遺産として遺したい——作家・五木寛之氏の想いがきっかけでスタートしたのが「昭和万謡集」だ。

 五木氏、藤原正彦氏、内館牧子氏、片山杜秀氏、酒井順子氏、ジュディ・オング氏によって選ばれた110曲は、どのような議論で決まったのか。最終選考会の模様を一部抜粋してお届けする。

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松本隆は昭和歌謡?

 酒井 今の若者が昭和歌謡を発見し、好んで聴いているそうですが、その中に「シティポップ」があります。昭和50年代に流行った音楽で、山下達郎、大瀧詠一、松任谷由実などが作り出した都会的なサウンド。その名曲の詞の多くを書いたのは、松本隆さんでした。私は意識せず20曲の中に4曲も選んでいます。松本隆さんの登場を、皆さんはどうご覧になっていたんですか?

松任谷由実 ©文藝春秋

 片山 昭和38(1963)年生まれの私は松本隆の歌ばかり聴いて育ちました。

 五木 自分たちの日常生活の中に入り込んできている地続きで等身大の音楽という感じがしました。松本さんの登場で歌の世界の現場がちょっと変わった気がします。「松本隆の世界」としか言い表せないようなものを作った。それまでの作詞家はいくら才能があって個性的でも「○○の世界」とは言われなかった。

五木寛之氏 Ⓒ文藝春秋

 酒井 松田聖子の『赤いスイートピー』(昭57)などアイドルの曲の詞もたくさん書いているので、シティポップにとどまらない作詞家ですよね。空前のヒットとなった『ルビーの指環』(昭56)も松本さんです。

 五木 松本隆は「昭和歌謡」に入れていいのかなと思うことがあるんですよね。

 片山 歌謡曲をある時代、民衆がみんなで歌っていた歌と考えれば、昭和40、50年代のニューミュージックやフォークソング、シティポップも、「昭和歌謡」だと言ってよくて、『昭和万謡集』に入れるべきではないでしょうか。