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「レアアースが入ってこないと、日本の産業は停滞してしまう。ただちに別の輸入先を探さなくてはならない。特命でベトナムに行き、ベトナム政府と交渉してくれないか」

 僕は首を縦に振れなかった。というのも、その時ベトナムでは「ハノイ建都1000年祭」という大規模なお祭りが開かれており、各国の要人が詰めかけていた。加えて、当時の首相は海外出張中で不在、政権を担うベトナム共産党幹部も地方出張中で、要人に会って交渉するなど難しいと思ったからだ。でも大畠大臣は「頼む、なんとかしてくれ」と拝み倒さんばかりの勢いで、しまいには「松下忠洋副大臣も同行させるから」と。根負けして、「やるだけやってみます」と答えたものの、「弱ったな」というのが本心だった。

「まるで遠山の金さんだったよ」

 すぐにハノイに渡り、関係機関に「大事な用件があるので、レアアースに関係する大臣にお会いできないか」と頼むと、何人かの大臣がハノイに戻ってきてくれた。

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能登半島地震の避難所で炊き出しをする(本人提供)

「日本は今までベトナムに協力してきました。ベトナムの人たちには、何かお返しをしたいという気持ちがあるのではないでしょうか。もしそうだったら、日本が困っている今、ぜひ力を貸していただけませんか」

 すると大臣の方々は口々に「できるだけのことはしたい。レアアースの輸出について事務的な話を進めましょう」と。松下副大臣同席の場で、確約をもらうことができたんだ。その後、菅首相がベトナムに渡り、レアアース開発に関する共同声明を発表した。

「あの理詰めの交渉は、まるで遠山の金さんだったよ」

 一部始終を知る人たちには、そう評された。そしてこうも言われた。

「杉さんが手を尽くしたのに、これでは首相がやったかのように見えて、杉さんの手柄にならないね」

 でも、僕はそれでいい。これまでもこの国のために、と働いてきて、自分自身のことは考えていない。

(聞き手・構成=音部美穂・ライター)