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「お前、何が言いたいんや」

 一発もらうぐらいでちょうどいい。しめたものだ。瞬く間にバチバチに絞めてしまう。

 2人以上が相手なら、まず頭をいわせてしまう。踏んできた場数が違う。手馴れたものである。 

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「出入りせんといて」パチンコ屋、雀荘、玉突き屋が“出禁”になったワケ

 大宮駅前にある店でもめると、少々ややこしい。常連は学生ばかり。彼がそいつらを絞めてしまうと、店は商売上がったりになる。店の側としては、営業政策上、何としても彼を手なずける必要があった。頭を撫でておかないと、いつ暴発するかわかったものではない。学生の客足が止まることだけは避けなければならない。

「もう、出入りせんといて」

「大人しゅうしといて」

「ここ、来んといて」

 いつの日からか、許はそう懇願される存在になっていた。「出入り禁止」にしてくれたのはパチンコ屋、雀荘、玉突き屋の3軒ともそうである。

 ただし、ただの「出禁」とは訳が違う。大宮駅に降りると、パチンコ屋の前で仲間と待ち合わせる。頭数が揃うと、入店。店員は何も言わず、パチンコ玉を一箱渡してくれる。そのまま換金するだけで、2000円か3000円くらいにはなった。

 金を掴むと、隣の雀荘に向かう。時間潰しに来ているとしか思えない4年生や5年生、6年生といった学生を相手に卓を囲んだ。先輩とはいえ、大学に通っているようには見えない。どう見ても外見はおっさんだった。

「闇社会の帝王」と呼ばれた許永中 ©文藝春秋

 昼時になると、飯を食いに近所の食堂に入る。午後からは玉突き屋に入り浸り、玉突きで決着をつける。玉突き屋の経営者は雀荘と同じおばちゃんだった。玉突き屋で許は金を払った記憶がない。顔パスである。

 パチンコ屋、雀荘、玉突き屋、食堂の4軒を回遊するだけでどういうわけか財布はパンパンになっていった。ヤクザのみかじめ料ではないが、ちょっとした凌ぎである。

 そうした「定期収入」の道が開けてからというもの、彼は電車で大学に通うのをやめた。タクシー通学に切り替えたのだ。