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ネオリベラリズムに「保守的に抵抗」した日本

 成田 長らく日本は変われなさの象徴でした。経済成長は消失し貧困化、にもかかわらず自民党が政権を握りつづけた。日本は何も起きない真空状態だと諦められていました。しかし疫病・戦争・インフレと世界がジェットコースター状態のこの数年で、変わらない日本の「横ばい力」が逆説的な魅力を纏いはじめたようにも見えます。政治がこれほど安定している先進国は他になく、コロナ・戦争の死者数もその後のインフレもマイルドでした。停滞が安定という美徳に姿を変えたようにも見える。

 トッド 「変化よりも安定を好む」のは日本の強みでもあり弱みですね。ただ現在、「変われない」のは、実は西洋諸国にも言えることです。フランスもドイツも変われない。米国の覇権下にあることが主な要因です。それ以上に問題なのは、支配国である米国自身が「変われない国」になっていること。トランプが再選されたことで何かが大きく変わるかと言うと、そうではない。知的面でも経済面でも「退化(デカダンス)」が続くでしょう。

エマニュエル・トッド氏

 成田 消極的に「変われない」または積極的に「変わらない」点で日本と西洋は似たもの同士ですね。

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 トッド 「保守主義」には二つあると思うんです。「進歩に対する保守的態度」と「退化に対する保守的態度」です。米国を筆頭に西洋諸国が「退化」に向かっている今日の文脈では、日本が体現しているような「(退化に対する)保守主義」はポジティブな意味をもつのではないでしょうか。ネオリベラリズムが推進する「破壊」に対して、日本は「保守的に抵抗」しました。私自身も、もともとフランスの左派の人間でしたが、少しずつ「保守的な人間」になってきたと感じています。

トッド氏と成田悠輔氏の対談全文は、「文藝春秋」2025年1月号、および「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「日本は欧米とともに衰退するのか」)。全文ではさらに、世界の少子化についての考察、社会の変化が生まれる背景、自由貿易がもたらした道徳的荒廃などについて、議論が交わされています。