虐待、DV、ネグレクト……家族の中で起こる問題は、外からは見えづらいからこそ深刻になりやすく、助けを求めることも難しい。「毒親」という言葉が注目されてからは、そんな実態に対する理解も進んだが、依然として問題は起こり続けている。

 漫画家の菊池真理子さんも、問題を抱えた家庭で育った。アルコール依存症の父と宗教にハマった母のもとでの苦難の日々は『「神様」のいる家で育ちました』(文藝春秋)や『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)といった著作に描かれている。

 菊池さんは、毒親から生き延びたかつての子どもたちを取材しコミック化した『毒親サバイバル』(KADOKAWA)に続き、家族に問題を抱えた当事者10名に取材したノンフィクションコミック『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)を上梓した。ここでは同書より1話を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/コミック本編を読む

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『うちは「問題」のある家族でした』菊池真理子(KADOKAWA)

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幼い頃は家族の抱える問題に気がつけない

――『うちは「問題」のある家族でした』刊行おめでとうございます。今作は家族に問題を抱えた当事者10名に取材した作品と伺っています。この作品が生まれるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

菊池真理子さん(以下、菊池) これまで、親との関係に悩む人の話を何冊か描いてきましたが、取材をするにつれ、親が悪いというだけでは片づかない問題が多いことに気がつきました。また当然ですが、家族のトラブルは親子間だけではありません。もっと広い視野で家族をとらえたら、新たに見えるものがあるのではないかと思ったことが、この作品を描くきっかけになりました。

――“貧困”の回で、明らかに貧しい家で暮らしているのに「自分と貧困が結びついていなかった」という主人公の子ども時代の描写がでてきますが、当事者ならではの視点や感じ方が描かれていてハッとなる場面が多々ありました。取材の中で、菊池さんの印象に残った当事者ならではの視点や考え方がありましたら、教えていただけますでしょうか。

CASE4「貧困」に登場するヒオカさんは、自らの状況が貧困に当たると気づいていなかった 『うちは「問題」のある家族でした』より

菊池 生い立ちをうかがった方に共通していたのは、幼い頃は家族の抱える問題に気がつかなかったという点です。ほかの家庭を知らない子どもにとっては、親との暮らしこそが普通で、基準になることが、あらためてわかりました。だからこそ最後のエピソードのように、まわりの大人がアドボケイト(編注:支援者のこと)の役割を担っていかないといけないのだと思います。

きょうだい児、マルチ2世、陰謀論…それぞれが抱える「問題」

――最近話題にあがるようになったテーマもありました。その中のひとつ、障害や病気を持つ兄弟姉妹を抱える“きょうだい児”について、取材の印象や問題への菊池さんのご意見、また“きょうだい児”回の感想など教えていただけますでしょうか。

菊池 実は私の親しい友人もきょうだい児です。これまでパートナーに打ち明けるタイミングや、親亡き後の相談を受けてきましたが、うまく答えられませんでした。部外者である私が口を出すには、センシティブすぎると感じていたのです。けれどそれは言い訳で、たんに私は逃げていたのでしょう。マンガの中に「きょうだい児にもいろいろな人がいる」というセリフがありますが、やはり友人の思いも選択も、マンガとはまったく違います。私はただ、目の前の人の話に真摯に向き合えばよかったのだと、今回教えていただきました。

CASE2「きょうだい児」に登場する雪代すみれさん 『うちは「問題」のある家族でした』より

――マルチ商法に関わる親を持つ“マルチ2世”についても、取材の印象や問題への菊池さんのご意見、“マルチ2世”回の感想など教えていただけますでしょうか。

菊池 やはり“宗教2世”との共通点を強く感じました。親がおかしいと思っても、親のバックには巨大な団体があるので、子どもはどうしたって数で負けて追いつめられます。どんどん心の交流がはかれなくなっていく様も、まったく一緒でした。“宗教2世”と問題の構造は同じなのに、“マルチ2世”はメディアで取り上げられることも少なく、もっと社会問題化されるべきだと思っています。マルチビジネスそのものにも、法がきちんと介入してほしいところです。

――“陰謀論”の回は、コロナ禍という社会的に危機的状況に陥った中でクローズアップされた問題でした。この回の感想、また社会の問題が家庭に与える影響について菊池さんのご意見を伺いたいです。