1ページ目から読む
2/2ページ目

菊池 いわゆる陰謀論者と言われる人たちは、コロナ禍であぶり出される前から、因子とでもいうべきものを持っていた方々なのかもしれません。未知のウィルスやワクチンに対しての恐怖はあってもおかしくありませんし、私もありました。けれどそこから行き過ぎてしまう人たちは、平たく言えばなんらかの「生きづらさ」を持っていたのではないでしょうか。今回はそんな顕著な例を描くことができたと思っています。

 一方、社会の側にも不安をあおるような言説やビジネスが溢れていますから、個人を責めるのも違うと感じます。「反医療」も同様ですが、陰謀論は今後、無視できない規模になっていくのではないでしょうか。社会の問題と家庭は切り離せないですし、悩む家族も増えることでしょう。

CASE1「反医療」の黒川摩耶さんの両親もどんどんと深みにはまっていった 『うちは「問題」のある家族でした』より

――今回題材となった9つの家族の問題、菊池さんが一番気になったのはどの問題だったでしょうか。感想、ご意見をお伺いしたいです。

ADVERTISEMENT

菊池 みなさん貴重なお話を聞かせてくださいましたし、どれが一番と決めることはできません。ただDV回のこの結末は、ノンフィクションでは初めてではないでしょうか。

家族の問題は「家族だけで解決すべき問題」ではない

――今作の主人公たちは、様々な方法で問題と向き合い、乗り越えていきます。その向き合い方について、菊池さんのご感想、ご意見をお伺いさせてください。

菊池 家庭の状況は個々で違いますから、みなさんその中での正解となる道を選ばれているのだなと感じました。スッキリ問題解決の方ばかりではありませんが、混乱の状況からは抜け出して、進む方向は見定めておられるのでしょうね。

――取材内容を作品として描くときに気をつけたこと、また描くポイントなどを教えていただけますでしょうか。

菊池 それぞれの「問題」から遠いところにいる読者さんにも伝わるよう、わかりやすく描くということを心がけています。けれどそのために、お話をしてくださった方が大事にされているエピソードを削ったり、端折ったりしなくてはならず、心苦しい面もありました。数十年の人生を、たった16ページにまとめるわけですから。事実そのままは描けなくても、エッセンスだけはしっかり伝えようと工夫したつもりです。

――菊池さんが『うちは「問題」のある家族でした』で描きたかったことや今作に込めた想いを教えてください。

菊池 家族の問題は、家族だけで解決すべき問題ではないということが、一番描きたいことでした。

CASE1「反医療」の黒川さんも家族ではない外の人々に支えられた 『うちは「問題」のある家族でした』より

「きょうだい児」「貧困」「DV」「ギャンブル依存症」「ヤングケアラー」「児童虐待」については、社会には支援の体制があります。それでもうまく機能しないことが多いのは、人員や予算不足といった政治的な理由のほかに、社会の無理解や偏見が邪魔をしているせいでしょう。私たちが意識を変え、社会が成熟すれば、問題は問題ではなくなります。ひいては現在は対処しにくい「反医療」「マルチ2世」「陰謀論」といった問題にも、良い影響を与えられると思うのです。

――最後に、『うちは「問題」のある家族でした』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。

菊池 9つのノンフィクションに登場する10人。みんな、あなたの友達だと思って読んでいただけたら、うれしいです。