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高校を中退し、15歳で家出

高校は電車で一駅のところにあったが、私は、多摩丘陵の林のなかを一時間ほど歩いて通うことにした。途中、牛がいたり花が咲いていたりする。そのたびに私は立ち止まり、牛を眺めたり、花の匂いを嗅いだりする。当然、遅刻。

入学して15日目。私はとうとう高校に行かなくなった。ぐずぐず歩き、始業時間よりかなり遅れて高校に着くと、そのまま校舎の前を通り過ぎ、隣接する大学の学食に行く。そこで時間を潰し、夕方になるとまた林のなかを歩き、何食わぬ顔をして帰宅した。当然、バレる。出席日数15日。一学期の終わりに渡された通知表には、赤ペンで書かれた「無評価」という文字が並んでいた。

父は、「学校に行かないなら家を出て、一人で生きろ」と言った。本当に出て行くとは思っていなかったのかもしれない。だが私はさっさと家出。新宿で知り合った学生から教えられた大学の寮に転がり込んだ。そのころ、大学の寮は出入り自由。誰からも咎められることはなかった。投げ出されていた汚い布団に包まり、空き瓶を拾い集めて金に換え、180円のアジフライ定食を食べて数カ月を過ごした。

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そこで私は初めてセックスをした。相手の男が好きだったわけではない。怖気づいていると思われたくなかったのだ。男の体の下で「セックスなんてたいしたことではない」という顔をしていた。15歳だった私は、そうやって自分を守っていた。

あとになって、相手の男が「あいつはマグロだ」と言っていると聞き、そうか、ああいうときは、感じたふりをしなければいけないのかと知った。それぐらい無知だった。

セックスは寝床の対価だった

それからも、家に帰りたくない一心で、声をかけてきた男のアパートに転がり込んだりした。食べさせてもらい泊めてもらう。セックスはその対価。これで貸し借りなしだと思っていた。馴れ馴れしくしてくる男の手を振りほどき、「私にかまわないで」と言う。男はとたんに不機嫌になって「そんな女だとは思わなかったよ」と吐き捨てる。「どんな女だと思ってたのよ」と言いながら、私は唇をひん曲げて笑う。体を投げ捨てるようなセックス。二度と会うこともない男たち。たがいに軽蔑を見せつけることで、脆弱な自尊心を保っていた。