1本のドキュメンタリーがミニシアターを席巻している。平日昼間でも完売・満席が続いているその映画は『どうすればよかったか?』。医師の家庭で、ある日、娘が統合失調症を発症。そこからの家族の姿を息子が長年にわたり記録した映画だ。公開間もなく口コミで衝撃が拡がっての大反響。何がいったい凄いのか? ジャーナリスト・相澤冬樹は劇場に走った。
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どうすればよかったか? 専門医に診せるべきに決まってる。でも、どうやって? 医師である両親が「病気じゃない」と姉の受診を拒んでいるのに、家族で最年少の僕はどうすればよかったんだ……。
カメラに収められた家族の秘密
凄い映画が出てきた。その凄みは冒頭から現れる。正月を家族4人で祝う食卓。めでたい席にそぐわない無表情な姉の顔。スクリーンはすぐに暗転し、暗闇の中から何やら異常に興奮した叫び声が響いてくる。これはあの姉の声なのか?
「どうして家から分裂症が出なきゃなんないの?」
ぞっとしながらも目が離せない。そのまま監督の一人語りへと入っていく。つかみとしてこれ以上のものはないだろう。一瀉千里に家族の壮絶な物語へと没入し、気が付くと1時間40分余の作品があっという間に終わっていた。
両親は医師であり研究者だった
冒頭の音声は、両親が頑なに認めようとしなかった姉の統合失調症(かつての精神分裂病)について、弟の藤野知明監督が記録にとどめようと録音したものだ。当時はまだ大学生だったが、やがて映画界に進んでから、姉のありのままの姿とそれを隠したがる両親の撮影を始めた。不審に思われないよう家族の行事を企画しカメラを回すという形で。だから家庭内の“秘密”を映像に収めることができた。
両親は医師であり研究者でもあった。なのに姉の理解不能な言動について「病気ではなく病気のふりをしているだけ」と不合理な説明を繰り返す。精神科医に診せるべきだと監督が訴えても受け入れず、話し合いを重ねるたびにストレスが高まっていく。監督が姉に話しかけても、両親が横から答えを先取りする場面が繰り返し出てくる。なぜ姉に答えさせないのか、観ていて非常に気になった。監督も「親がすべて先回りして答えを出すのが一番よくない」と母親に語る。