「市が定期的に施設の実地指導をしていますが、記載漏れがないかなど書類をチェックする程度。書類だけで不正を見つけることなど不可能です。しかも、実地指導の日程が数カ月前に市から予告されるため、それまでに書類の改竄(かいざん)もできます。実際に会社は予告があると、書類の辻褄合わせをしたり、実態と異なる書類を作成していました」
行政の担当者は私の取材に対して、「内部告発でもないと不正を見つけるのは難しい」と吐露し、「他の自治体でも概ね同じだろう」と語った。
転倒した入居者を「この人は認知症だから大丈夫」と…
一方、サービスの質の低下も懸念される。関東郊外で働く女性の介護士は、こんな証言をした。
「入浴介助の際、クレームを言えない方や認知症の方などに、1枚のタオルを3人に使いまわしていたこともありました」
「夜中に入居者さんが部屋の外を歩いていて、エレベーターホールで転倒してしまい、腕が変な方向に曲がってしまった。救急車を呼びましょうと古株の介護士に言うと、『この人は認知症だから大丈夫』と言うんです。本人は忘れるから、室内で勝手に転倒したことにすれば大丈夫だと」
これらの例は氷山の一角に過ぎない。事業者が「人手が足りないから余計な仕事を増やすな」「面倒を起こすな」と、過剰なまでの経費削減を職員に徹底させる結果、虐待が日常化しているのだ。
政府も対策を進めている。
24年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」の中に、介護職の業務範囲についての記述がある。これまで医師や看護師、薬剤師が行っていた専門的な知識・技術を必要としない行為を明確化し、介護職員が代わりに行う「タスクシフト」ができるようになれば、ケアが円滑になるのではないかという主旨の議論が交わされてきたのだ。PTPシート(錠剤やカプセルが包装されたもの)からの薬剤の取り出し、お薬カレンダーへの配薬等の行為など、医行為でない範囲を明確化する議論が続けられており、25年までに結論を出すとしている。
介護職員の待遇面についても、政府は25年度に2パーセントのベースアップを目指している。同年度からは訪問介護の現場で外国人労働者の受け入れを拡大する方向だ。