『ふたごの餃子 ゆうれい居酒屋6』を読んでくださってありがとうございました。お楽しみいただけたら幸いです。
私は現在「食と酒」シリーズを三作執筆しておりますが、面白いことに一番新しい『ゆうれい居酒屋』シリーズが、一番実社会に広がりを作ってくれます。新小岩の東京聖栄大学、第一書林、平井の鰻料理店「魚政」、ホッピービバレッジ株式会社の石渡美奈社長と、次々ご縁が広がりました。
さらに今年はホッピーの友・キンミヤ焼酎の株式会社宮﨑本店会長、宮﨑由至氏からキンミヤ焼酎と清酒「宮の雪」を贈って頂きました。私は感謝を込めて、晩酌をハイボールからキンミヤ焼酎のソーダ割に切り替えました(笑)。
そして十月には新小岩つながりで葛飾区立中央図書館で講演をさせていただきました。葛飾区立中央図書館では『ゆうれい居酒屋』の特集展示をしていただいており、大変光栄で、ありがたいことでした。
十一月には東京聖栄大学の学園祭に招待されて「かつしかの元気食堂」というイベントでトークショーをさせていただきました。初めての経験でとても楽しいひと時でした。
今回の第六巻にも、私の実体験を投影したエピソードが含まれています。第二話の「掏摸の名人」の神業の話は、亡くなった父(大正四年生まれ)から、子供の頃に聞かされました。それが事実かどうか、今では検証のしようもありませんが、「あったらいいな」という願いを込めて、取り入れました。
そして第四話の「二人の奥さまと二つの真珠のネックレス」のエピソードは、私が宝石店に勤めていた時の実体験です。店長は宝石業界の長いベテランで、目の前で繰り広げられた魔法のような場面は、今でも目に焼き付いています。
私はおしゃれが好きで、アクセサリーも大好きですが、基本の考え方はココ・シャネルと同じで、「何も本物の宝石でなくても良いんじゃないか」と思っています。でも、世の中には宝石を愛していて「この宝石があるから、どんな席にも自信を持って出ることが出来る」と考える人もいます。
今思えば、宝石に愛着のない私が宝石店で働いていたのは、教育にも生徒にも何の興味も愛情もない「坊っちゃん」が教師をしていたのと同じくらい、互いにとって不幸なことでした。
もう一つ、今年は私にとって大きな節目となりました。同居していた十一歳年上の長兄が、六月末に亡くなったのです。母と同じく、入院はせず、ずっと我が家で在宅介護を続けました。糖尿病から腎不全を併発し、二〇二〇年からは歩行困難になって車椅子生活になりました。二〇二一年からは人工透析で身体障害者一級になりました。
糖尿病から腎不全を発症して人工透析になると、平均余命は五年以下といわれています。兄の場合は四年でした。覚悟はしていたので、最期を看取った時は、マラソンを走り切ったような気分でした。兄も眠ったまま旅立って、とても安らかな最期でした。
こうして人生六十六年で、初めて一人暮らしを体験することになりました。考えてみれば、今の私は秋穂さんと同じ境遇です。これまで以上に秋穂さんの気持ちになって、米屋を訪れるお客さんたちのお役に立てればよろしいのですが。
皆さま、どうぞこれからも、この世ならぬ秋穂さんとご常連の活躍を、温かくお見守りください。