還暦を迎えた作家の山口恵以子さんが、自ら「癒着親子」とまで書くほど愛してやまない母親を、自宅介護する日々を記録したエッセイを発表した。
「介護は、大変、苦しい、疲れる、家族がもめるといったイメージがあります。でも、私は介護をなさっている皆さんが読んで、『バカだなあ』と笑って、ほんの少し元気が出ることを祈って書き上げました」
「毒母」をテーマにした作品もある山口さんだが、実生活では素晴らしく相性のいい母親に恵まれた。「少女漫画家を目指していた時も、脚本家の夢を追っていた時代も、母は決して私をバカにしなかった」と言う。
そんな自分の存在を全肯定してくれた母親が、父親を亡くした2000年を境に急激に衰え、家事ができなくなり、認知症を疑うような出来事が増えていった。
「あの時の不安と恐怖は凄かったです。身分の不安定な派遣社員をしながら、シナリオのプロットライターの仕事もしていました。そんな中、本当に頼れる存在だった母が、私がいないと何もできない人になってしまったんですから」
その後、山口さんは丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務。安定した職場を得て、脚本家から作家を目指す夢を追うようになる。
やがて07年に作家デビュー。13年に松本清張賞を受賞し、「食堂のおばちゃん作家」としてブレイクする。そんな日々の中でも介護はずっと続き、母親がご飯をたくさん食べられたことを喜び、粗相をしても「漏らすほど水分をきちんと取れたんだ」と安堵する。
「介護には、往々にして悲惨なことがあります。でも、母は、いつもユーモアと感謝を忘れないんです。ふとした瞬間に『ありがとう』と言ってもらえると、すごく救われますね」
母親の美容整形宣言や、山口さん定番ネタの43回のお見合い失敗談、年金事務所へのカチコミなど、どこかドタバタ劇のような味わいがある。飼っている猫のイタズラ話もかわいらしい。つらい介護にも、心の余裕を忘れることはない。
「介護が行き詰ってしまうのは、真面目にきちんとやらなくてはいけないと思うからだと思うんです。コツは金をかけるか、手を抜くか。あとは、なるべく介護離職をせず社会との繋がりを持つこと、介護保険を使ってプロの手を借りることが大事だと思います。
後悔のない介護ってない。でも、その人が精一杯やっていることは、間違いないはずだと思います」
『おばちゃん介護道 独身・還暦作家、91歳母を看る』
完全マザコン娘の独身還暦作家、母親を看る。介護はツラいけど、うまく手を抜くことも大事。出来合いの総菜上等、1週間、鍋が続くことも。Twitterのフォロワーや編集者など周りの人の助けも得て1人ではないとホッとする。いま介護をしている人、これから介護をする人にも、気持ちが楽になるヒントが満載。