2014年、1ヵ月の間に3人もの高齢者が転落死した神奈川県川崎のある老人ホーム。不自然な死が続いたことで世間から注目を集めるにつれて、同施設の問題がさらに浮き彫りになる。職員たちが入所者に罵声を浴びせ、ときには暴力まで行うその悪質実態とは…。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『殺人の追憶』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

川崎の老人ホームで起きた惨劇とは? 写真はイメージ ©getty

◆◆◆

事故死から一変、殺人事件へ

〈自室以外から転落死か96歳、裏庭で発見 川崎・老人ホーム/神奈川県〉

 

 川崎市幸区の老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で高齢の男女3人が相次ぎ転落死した問題で、市は7日に会見を開き、転落の状況や施設内での過去のトラブルなどについて明らかにした。昨年12月31日未明に6階から転落した女性(当時96)は、居室とは別の部屋のベランダから裏庭に落ちたとみられるという。

 

 市によると、女性は施設北東側の609号室に入所していたが、施設内の通路を挟んだ601号室の下の裏庭で倒れていた。要介護度3と認定されていたという。601号室には別の入所者がいた。

 

 昨年11月4日未明に4階から転落した男性(当時87)と、同12月9日未明に同階から転落した女性(当時86)も同じ裏庭で発見された。施設の報告書では、いずれも「県警の現場検証の結果、転落による事故」とされていたという。県警は経緯に不審な点がないか改めて慎重に調べている。

 

 市によると、市内には2千前後の介護事業所があるが、ベランダからの転落死の報告は昨年度、この3件だけだった。市は近く、施設側に再発防止を再度指導し、入所者らの不安を取り除くために一連の経緯を丁寧に説明するよう求める。

 

 一方、今年5月に入所者の女性(当時85)の家族から「虐待を受けた」と訴えがあり、市は今夏、施設側に改善を求めた。職員4人が、女性に「死ね」と暴言を吐いたり、頭をたたいたりするなどしたという。

 

(朝日新聞 2015年9月8日朝刊)

 マスコミの取材レースが本格的に始まったのは、川崎市健康福祉局高齢者事業推進課の関川真一課長が会見で「短期間に3件も起きたのはあまりにも不自然」と話し、朝日新聞が転落の状況や過去のトラブルについての一報を打った2015年9月8日ごろからだった。

ADVERTISEMENT

 警察は、1・2件目については事故死扱いしたが、3件目が起こり捜査方針を一変。前述の通り今井を任意で聴取するなどして水面下で捜査を続けていた警察が、容疑者・今井隼人の名前と住所をマスコミに漏らしたことで、どよめきが起こり、多くのメディアが各現場に急行したのだ。