「最後の10本目だけ出しきるのは違う」
柏原は、そのために「練習が大事だ」と言う。
ケガをせず、1日1日のトレーニングをしっかりこなす。ただ、与えられたものをやるだけではなく、これはなんのためにやるのか、自分の頭で考えてやっていく。
「考えないと成長しません。よく、10000メートル10本とか、1本目から9本目までペースを刻んで進めたあと、最後の1本とか、ラスト400メートルとか、上げて飛ばす人がいますけど、僕はそういうのが大嫌いです。ラストだけ上げるとアドレナリンが出て、出しきったとか、やりきったと感じて、その感覚だけで満足して終わってしまうんです。最後にフリーで出しきる練習ならいいですけど、そうではなく1本目から9本目まで余裕があって、最後の10本目だけ出しきるのは違う。だったら最初から全体のペースを上げて、パフォーマンスを高めていったほうがいい」
「絶対に後ろにつかずに前に出よう」と決めていた
高瀬に並ばれた三輪は、「プランどおりだった」と柏原は見ていた。追いつかれることをイメージをしていたので、それまで力を使わずに、追いつかれても引き離されないことを重視していた。
一方、高瀬は三輪に追いつくまでにかなり力を使っていた。
「並んでから突き放していく。早稲田の戦略勝ちというか、さすが早稲田は賢いなと思いましたね」
高瀬に戦略勝ちした三輪に柏原が追いついたのは、19 ・23キロメートル地点だった。
このとき、いちばん頭を使い、考えた。
「ここで横についたら逆に離されるだろうか」
おそらく、三輪も柏原の足音を聞きながら考えていただろう。後ろについてくるのか、それとも突っ込んでくるのか、と。
「僕は、絶対に後ろにつかずに前に出ようと決めていました。今、後ろにつくと自分のリズムが狂ってしまうと直感したからです。リズムが合わないと後ろについてもマイナスになってしまう。自分のリズムで上ること、それは終始一貫していました。もうひとつそう決めたのは、下りが嫌いだったからです。下りに入って勝負するのは分が悪いので、勝負するなら下る前だと踏んでいました」