お祭り騒ぎの会場の空気が一変、すべての人が美輪の力強い歌声に聴き入った。汗まみれ・泥だらけで懸命に働く母親の姿を思い出し、今の自分があるのは母のお陰と感謝したくても、もうこの世にいないという歌である。テレビの画面はほぼ真っ黒なのに、母と子の光景が目の前にひろがるような錯覚を覚えた。歌の力ってこういうことだよなと実感したのを、今でも覚えている。
2014年――ナゾの映像を差し込みながらも中森明菜が登場
あの歌声をもう一度、と復活を願う人が多い中森明菜。2014年に久々の登場(ニューヨークのレコーディングスタジオから中継)をはたしたものの、完全復活とは言い難く。話し声は弱々しくて聞き取りづらく、待ち望んだ姿ではなかったものの、歌への情熱は枯れていないことを確認。
明菜の表情をはっきりと映し出すことはなく、歌っている最中も、太陽とか(日曜劇場か!)、鷹とか豹とかナゾの野生動物の映像やニューヨークの街並みの映像が差し込まれていく。消化不良ではあったが、「明菜、今じゃなくてもいいよ、じっくり待つ」と誰もが心に決めた瞬間だった。あれから10年…そろそろではないかしら?
2018年――米津玄師が実在の人物であることを確認
ドラマ「アンナチュラル」(TBS)の主題歌「Lemon」を中継で披露した米津玄師。名作ドラマの空気感にシンクロした名曲を生み出しながら、公の場にあまり出てこないため、実在しないのではないかと思っていた。存在を確認できてよかった。歌手だからといって紅白に喜んでホイホイ出る人ばかりではない。その舞台設定や音質、歌そのものの扱いにこだわる歌手は、昭和の時代からいたしね。
そんな米津、翌年はVTRのみの登場。彼が作った歌を子どもやアイドルや役者が歌うという「忌避の一手」。聴きたいのは米津本人の歌であって、他人が歌うのはどうでもいい。そんなイケズに歯ぎしりした紅白だった。