今年も様々なドラマを生んだ、箱根駅伝。悲喜こもごもの戦いに、心を動かされた人も多いのではないでしょうか。

 そんな「箱根駅伝」を巡って、学生ランナー、中継を担当するテレビクルーの姿を活写したのが、池井戸潤さんの最新長編『俺たちの箱根駅伝』。『週刊文春』連載時から話題沸騰の重厚な作品を、池井戸さん史上初となる単行本上下巻組で展開します。

 発売を記念して、池井戸さんに創作秘話をたっぷり伺うインタビューを敢行! 物語の種はどこから? なぜ箱根に感動するのか? など、「箱根ロス」の方も必見です。

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 この感動をもう一度、小説で! ロングインタビュー#2です。(全3回の2回目 初出:2024年4月24日)

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セオリーはない。ならば、自由に想像できる

――駅伝ランナーたちの物語を書くにあたって、どんな取材をされたのでしょうか。

池井戸 ある大学の陸上競技部の監督を訪ね、学生たちが普段、どんな日常を送っているかを伺いました。本当に親切に教えていただき、大変助かりました。

 それまで、駅伝のチームには、共通した練習方法や寮生活、チーム内の雰囲気やルールがあるんだろうと思っていました。
 
 でも、そうじゃなかった。各大学それぞれに練習方法やルールがあって、カラーがある。寮ひとつとっても様々で、有るところもあれば無いところもあるんですね。それぞれのチームの事情や環境をふまえ、より速く走るために、強くなるためにどうすればいいのかと各チームが知恵を絞っている。ものすごく手作り感があるんですね。逆にいえばそれは、僕が自由に想像して書く余地があるということです。
 
――学生側の主人公となるのは、明誠学院大学の4年生・青葉隼斗。この架空のチームを中心に物語は進行していきます。青山学院、早稲田、駒沢、東洋など実在の学校とのやり取りに、リアリティーがありますね。

池井戸 熱烈なファンの多い箱根駅伝ですから、やはり架空の大学だけではもの足りないだろうと思います。ですが、前述したような理由で、舞台となるチームやライバルたちは架空の大学ということにしました。

 物語の中にはかなり破天荒なランナーも登場しますが、箱根駅伝と、それに挑む選手たちへのリスペクトは絶対に忘れないようにしようと肝に銘じました。ここに登場する全ての人物は、本当に生きている人と同じです。なにかを心に抱え、悩み、なにかと戦いながら生きている。それぞれの登場人物が紡ぎ出すドラマに光を当てようと考えました。