1ページ目から読む
3/3ページ目

セックスシーンが笑えるのにエロい

――井﨑さんがハマったのは2020年とのことで、まさに電子書籍やマンガアプリが全盛になってからですね。

井﨑 その頃、子どもが大学受験を控えて家で勉強していて、その横でテレビを点けるのも悪いと思ってスマホをいじっていたとき、SNSに流れてきたマンガアプリの広告を押したのが始まりです。最初はTLではなかったんですけど、読んでいるとアプリがどんどん別作品をおすすめしてくるんですね。

 それでたどり着いたのが、セックスに劣等感がある35歳バリキャリ女性が主人公の『木更津くんの××が見たい』(以下『木更津くん』/萩原ケイク/2020年~)でした。ジャンル名は知らずに、ちょっとエロのあるお仕事ものの女性マンガだと思って読んでいて。

ADVERTISEMENT

『木更津くんの××が見たい(1) 』(commic donna)より。仕事も見た目も隙がない旭はセックスへのコンプレックスから、男がオナニーしているところを見たいと思うようになる。取引先の年下男子が「見られたい」願望を持つとわかり、ホテルに行くことに。
『木更津くんの××が見たい(1) 』(commic donna)より

藤谷 心理描写もかなりしっかりしている作品ですね。

井﨑 自分磨きに一生懸命で、仕事も頑張っている女性が、恋愛とセックスについてはとにかくこじらせている。その姿がリアルで愛しくて、しかもセックスシーンが笑えるのにエロい。周囲の男性を含めて、仕事とセックスを通した成長譚にもなっていて「こんなマンガ、読んだことない!」と思いました。

 その後に「これがTLなんだ」と認識したのが、2025年2月から実写ドラマが放送される『キスでふさいで、バレないで。』(以下『キスバレ』/ふどのふどう/2021年~)ですね。

アオヤギ ふどの先生は絵がすごくキレイですよね。

井﨑 そうなんですよ。アオヤギさんがおっしゃったようにTLは毎話エロが必要なだけに、「とりあえずエロいシーンを入れました」という感じの作品も結構あるんですが、『キスバレ』は毎回のエロにちゃんと必然性がある。一見ぼおっとしているのに、毎回易々とエロ展開に持ち込んでしまうヒーロー像も新しいと思いました。

※TL漫画の王道展開や、TL漫画が「唯一推されていないジャンル」である理由、女性たちがTL漫画について語ろうとする際に生じる問題についてなど、縦横無尽に語った全文は発売中の『週刊文春WOMAN創刊6周年記念号』でお読みいただけます。

アオヤギミホコ

1990年生まれ。ライター。女性向けエンタメを中心に執筆活動を行う。主に担当・参加した企画に『アダルトメディア年鑑2024』、『ユリイカ』「百合文化の現在」「女オタクの現在」特集、『SFマガジン』「百合」「BLとSF」特集など。

藤谷千明

1981年生まれ。工業高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後職を転々とし、フリーライターに。著者に『藤谷千明 オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)、『推し問答! あなたにとって「推し活」ってなんですか?』(東京ニュース通信社)など多数。

井﨑彩

1975年生まれ。2018年の創刊時より『週刊文春WOMAN』編集長。毎晩深夜0時になると、愛読する5つの漫画アプリから大量の更新通知が届く日々。その多くがTLかもしれません……。