“運び”では本人と親の身分証提示が必要
電話口の男は体育会系で培ったような歯切れのいい敬語を使い、こんな提案をしてきた。
「“運び”だったら40万と200万の新宿発の案件があるんですけど、本人の身分証と親の身分証の提示が必要なんすよね」
——親の身分証は厳しい。
「なるほど。それなら報酬の半分を手付金として預けてもらうのはどうですか。まず40万の案件なら20万を払ってもらう。仕事が終わったら合計60万円を渡しますよ」
——新宿発で目的地は?
「本当にやるならお伝えします。リスクあるので」
いったい何を運ばせるつもりだったのか……。さらに小誌は別のリクルーターとも接触。こちらは淀みのない澄んだ声色で、保険のセールスマンのごとく丁寧な話し方をする人物だった。
偽物のロレックスを売却するバイトも
記者が1週間以内に100万円が必要だと言うと、こう返してきた。
「それならロレックスを売却しに行くことは出来ますか? 例えば質屋の『A』だったり『B』だったり。行ってもらって私どもの人員にお金を渡してもらえば任務終了です」
——それだけで100万円?
「1本あたり大体20万から30万の報酬額になるので、100万となると5本か6本回して頂きたい感じになりますね」
——リスクはゼロ?
「ちょっとそこ説明してなかったんですが、ロレックス自体が偽物なんですよ。でも、買取店での鑑定は確実に通るし、これまで動いて頂いた方で、誰ひとり捕まっていませんから。なんならこれ、僕が自分で行ってもいいような案件です」
逮捕リスクありのUD案件
ここで記者が「他の案件はないのか」と尋ねると、
「あまりおすすめは出来ないんですが、いわゆるUD案件もあります。逮捕リスクありますけど」
UDとは「受け子・出し子」のこと。オレオレ詐欺など訪問型の特殊詐欺で、被害者から現金やキャッシュカードを受け取るのが「受け子」で、被害者を騙して口座に振り込ませた現金をATMから引き出す役割が「出し子」である。
——いくらぐらい儲かる?
「その家からいくら取れるかにもよりますが、回収分の10パーセント。うちは基本、500万円からフォーカスしているので、ミニマム50万ですね」
さらに記者が「すぐに金になる仕事はないか」と尋ねたところ、驚愕の案件が飛び出したのだ。
「サイバー犯罪対策課の……」
「明日ならめちゃくちゃ良い案件があるんですが、めちゃくちゃ難しいですよ」
——難しい? 運びとか?
「明日、警視庁に行ってもらって、サイバー犯罪対策課に入る10名の顔写真を盗撮してきて欲しいんですよ」
——ハードルが高い……。
「C署かD署なんですが、何階でセレモニーやるのか分からないんですよね。だから署の中まで入ってもらって、無事撮影できたら50万円を払います」
なんと闇バイト側は、大胆不敵にも警察までターゲットに据えていたのである。