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 この曲の発表から1週間後となる2021年8月16日には、今年紅白に3度目の出場を果たすダンス&ボーカルグループであるBE:FIRSTのプレデビュー曲「Shining One」が発表されている。BE:FIRSTを生み出したオーディション「THE FIRST」には工藤もゲストとして登場していた。

 この「THE FIRST」は、日本の音楽業界への問題意識を抱えていたラッパーのSKY-HIが「才能を殺さないために。」をスローガンに起業した会社BMSGによる企画である。つまり、今のダンス&ボーカルのシーンにおいて大きな影響力を持っている存在が、3年前の夏に期せずして日本の音楽業界に対する異議申し立てをともに行っていたと言える。

オーディション「THE FIRST」で選ばれたメンバーで構成されるBE:FIRST(BE:FIRST公式Xより)

 この3年間、つまりDa-iCEのレコ大受賞年である2021年から紅白初出場を決めた2024年の間に、男性ダンス&ボーカルグループを取り巻く環境は大きく変わった。この変化は、紅白に出場するアーティストの顔ぶれに表れている。以下に名前を挙げたのが、各年の紅白に出場した歌って踊るタイプの男性グループである(グループ名の後ろの(初)はその年が初出演となったグループ)。

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2021年→GENERATIONS、SixTONES、KAT-TUN(初)、King & Prince、Snow Man(初※)、関ジャニ∞

2022年→SixTONES、なにわ男子(初)、JO1(初)、BE:FIRST(初)、Snow Man、King & Prince、関ジャニ∞、KinKi Kids

2023年→JO1、Stray Kids(初)、BE:FIRST、SEVENTEEN(初)

2024年→JO1、Da-iCE(初)、TOMORROW X TOGETHER(初)、Number_i(初)、BE:FIRST

 2021年のGENERATIONSを最後にLDH所属のグループが姿を消し、2021年の5組および2022年の6組と大きな影響力を誇っていた旧ジャニーズ事務所のグループは性加害問題に端を発して2023年から0組となった。代わりに台頭してきたのが、Stray KidsらのKポップのグループ、日韓合同のオーディション企画によって生まれたJO1、TOBE所属のNumber_i、そして前述のDa-iCEやBE:FIRSTである。

今年、紅白に初出場するNumber_i(Number_i公式Xより) 

 2010年代にシーンの中心にいた存在が新たな勢力に入れ替わっていったのが、2020年代前半から半ばにかけての出来事だった。そしてその動きは、前述したスキルの高さを見直す流れともリンクしている。様々なことが起こっている令和の音楽業界の中でも、男性ダンス&ボーカルに関する状況の変化は、特にインパクトの大きなものだった。

さらなる自由競争と向き合う

 もっとも、大きな流れの中で後退を余儀なくされている勢力も今のシーンの動きに適応できていないわけではない。

 旧ジャニーズ事務所を出自に持つグループにおいてもSnow ManやKing & Prince、Travis Japanなどは他のグループにひけをとらないダンススキルを見せており、LDHからもスキルの高さを披露する新たなグループが安定的に登場している。

 Da-iCEが一つのきっかけを作ったボーイズグループに関する新たな流れは、ここからさらに加速していくだろう。この後繰り広げられるのは、所属事務所やこれまでの影響力にとらわれない形でのさらなる自由競争である。今後どんなグループがどのように存在感を発揮するのか、そして迎え撃つ側はどんな矜持を見せつけるのか。今年の紅白を経て、2025年の動向が楽しみである。

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※1 「Kartell」(作詞:工藤大輝、作曲:工藤大輝・島田惇)

※2 Snow Manはデビューの翌年、2020年に初出場が決定していたが、メンバーが新型コロナウイルスに感染し、全員が濃厚接触者に該当したことから出場を辞退したため、2021年が初出場となる。