「積水ハウス事件みたいに派手じゃないが、自分なら、これをネトフリの(Netflixで話題になった)『地面師たち』パート2にするね」
地面師詐欺に詳しく、彼らにホームレスの戸籍を売却したことがあるという暴力団の幹部A氏がそう語るのは「シエロ・ホーム事件」だ。
2000年代前半のマンションブームの真っ最中に“地面師”たちは多くの住宅ローン詐欺で巨額の金を稼いでいたが、「シエロ・ホーム事件」はその中でも最大級の50億円規模の事件である。
森功氏の著書「地面師たち 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団」にも「シエロ・ホーム事件」は登場し、「ホームレスが50億の住宅ローン」と紹介されている。
山口組系組幹部の森内正弘ら4人の首謀者は、2003年から「シエロ・ホーム」というマンションディベロッパーを使って、ホームレスに川崎市などのマンション購入契約をさせ、東京三菱銀行、UFJ銀行、みずほ銀行などで総額50億円の住宅ローンを組ませたのだ。4人は2005年に逮捕されている。
「シエロ・ホーム、懐かしい名前だな。ホームレスを売ったことがある」
森内らの手口は巧妙だった。まず事前準備として、ホームレスを雇ってどこかの自治体に住民登録をさせ、用意した会社や店で働いていることにして偽の源泉徴収票を作る。
A氏は「シエロ・ホーム、懐かしい名前だな。ホームレスを売ったことがある」という。“売った”は、戸籍を使えるホームレスを斡旋して紹介料をもらったという意味だ。
ホームレスの値段は当時で1人につき30万円から150万円。値段の違いは、ホームレスの信用情報によって変わってくる。過去に自己破産したり借金の返済が遅れて金融機関などでブラックリストに載っている場合は安くなるが、信用情報が綺麗でお金を借りやすい“ホワイト”と呼ばれる人間ならば紹介料も高くなる。
さらにホームレスの“相場”は年齢が鍵になる。ローンを組める年数が変わるからだ。