「ホワイトで若いのをつかまえたら銀行が『ローンを組んでも大丈夫だ』と思う“いい人”に育てやすい。住宅ローンだって25年、30年と組める。40過ぎだとたいした金にならず、50過ぎのホームレスだといい人に育てるのに金がかかる」(A氏)
シエロ・ホームではA氏以外にも多くの戸籍密売ブローカーからホームレスの戸籍情報を買っていたようだ。
「ホームレス本人には小遣い程度を渡すだけで、必要なのは彼らの戸籍。ボロボロのホームレスをダミー会社に入社させて源泉徴収票を作れば準備は終わりだ」(A氏)
「銀行側は成りすましがローンを申請しにくるとはハナから思っていない」
源泉徴収票の他に保険証や印鑑証明など、ローンを組むのに必要な書類が揃ったら、シエロ・ホームが販売する家を購入するという体で、いよいよ銀行にローンを申請することになる。
「ここで銀行に行くのはホームレスとは全くの別人、替え玉だ。銀行側は成りすましがローンを申請しにくるとはハナから思っていない。わざわざ毎月返済しなければならないローンを組むために、様々な書類を用意して自分たちを騙しにくるなんて考えもしなかった」(A氏)
簡単に騙されたのは市役所や区役所の窓口も同じだった。
「替え玉が実印の印鑑登録を行い、印鑑証明を作りにくるなんて彼らは想像もしていない。だから窓口に来た人をまったく疑わない。銀行も必要な書類がすべて揃い、身元確認がきちんとできれば問題なくローンを通してしまう」(A氏)
詐欺師らは住宅購入費用として、ホームレス1人当たり4000万円から5000万円ほどのローンを組ませる。ローンがおりると、銀行からシエロ・ホームにその代金が入金された。銀行がシエロ・ホームに払った総額は約50億円にのぼった。
この時点で、ホームレスは自分が巨額のローンを組んでいることは知らされていない。巧妙なのは、しばらくの間は森内たちが銀行に毎月返済のお金を振り込んでいたことだ。