俳優の松重豊氏が監督・主演・脚本を同時に務めた『劇映画 孤独のグルメ』が1月10日に公開された。この映画の主題歌「空腹と俺」を歌うザ・クロマニヨンズ・甲本ヒロト氏と松重氏は、実は40年来の旧知の仲。明大生だった松重氏が初めてメガホンを取った映画で、甲本氏が主演を務めたという。
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初めての大きな挫折
僕が進学した明治大学文学部の演劇学専攻は、「演劇」と冠するだけあって、ほとんどの学生が役者志望。僕も自然と演じる側にのめり込むようになりました。なにせ、当時の演劇界は非常に刺激的で、まだアングラ演劇の残り香が漂っている頃でした。唐十郎さん率いる「劇団唐組」の移動式劇場「紅テント」や、寺山修司さん主宰の劇団「天井桟敷」といった、そこまでやるかというくらいに強烈な演劇が影響力を持っていました。僕も新宿のゴールデン街の小劇場で、奇抜な演出の芝居をしたことはよく覚えています。そんなぶっ飛んだ挑戦を、お客さんも大人しく受け入れていた。その瞬間、「あ、この世界で生きていくのもアリかな」と思ったんです。
演劇に心惹かれていった僕ですが、やはり映画制作も諦めたくなかった。揺れる日々の中で、ロックをテーマにした自主映画を制作することにしました。当時のパンクロックやビートロックは、僕の揺れ動く心のような、“青春の衝動”を表すのにしっくりきたんです。
その映画の主演をお願いしたのが、下北沢の中華料理店でともにアルバイトをしていた甲本ヒロトです。後に「THE BLUE HEARTS」「ザ・クロマニヨンズ」などのボーカルとして大活躍する彼とは上京直後、同じ日にバイトを始めて、互いに音楽好きということもあって意気投合しました。当時の下北沢にはバンドや演劇で一旗揚げようとしている若者がたくさんいましたが、ヒロトはその中でも頭一つ抜けた存在だったのです。
しかし、ヒロト主演のロック映画は失敗に終わります。