新年を迎えたのを機に、多少なりとも縁起を担いで運気を呼び寄せたい……。そんな気持ちを抱いている人におあつらえ向きの展覧会が、皇居東御苑内・江戸城三の丸にある皇居三の丸尚蔵館で開催中の「瑞祥のかたち」展だ。
宝船に乗って蓬莱山を観に行く
場所柄から推察できる通り同館は、皇室に受け継がれてきた6000点以上の品々を、収蔵・管理・公開する施設。今展はその中から選りすぐり、新春らしさ溢れるありがたい宝物の数々で展示を構成している。展名にある「瑞祥」とはめでたい兆候、すなわち吉兆のことである。
さて会場には、どんな作品が並んでいるのか。順を追って巡ってみれば、まず出くわすのが宝船だ。日輪に鶴を描いた帆が風をはらんで膨らむ様子までをも、鼈甲細工で精巧に表現した《宝船「長崎丸」》(江崎栄造作)。大正天皇へ長崎県から献上された逸品で、船上には農産物や水産加工物など長崎県の物産27種がぎっしりと積載されている。
続いて見られるイメージは、蓬莱山である。古代中国で不老不死の仙人が住むとされ、水晶の林の中に瑪瑙、琥珀、金、銀、白玉の楼閣が見え隠れし、珍奇な鳥獣や草花も生息するという。日本では古来、めでたき吉祥の図として描かれてきた。
狩野常信《蓬莱図》は江戸時代の作で、大亀の甲羅に乗った州浜から蓬莱山が天へ伸びるさまを描いて、神々しさを感じさせる。山の上方を抑えた彩色にするなどして遠近感を付け、蓬莱山のスケールの大きさを演出している。
同じく江戸時代の作品で、岩佐又兵衛の筆となる《小栗判官絵巻》巻八上にも、蓬莱山の偉容が登場する。絵巻自体の内容はといえば、貴族の子として生まれた主人公・小栗と関東の豪族の娘・照手による、壮大な恋愛物語だ。
巻八上では、無断で婿入りした小栗を照手の父が宴に招いて殺害しようとするという、サスペンスドラマさながらの展開が用意されている。クライマックス場面の描写で座敷の広縁には、蓬莱山をかたどった岩山を背負う大亀のつくりものが、どんと置かれているのだった。
この巻物は明治時代、かつて岡山藩家老だった池田長準が、広島滞在時の明治天皇に献上して皇室所蔵となったものである。
会場を奥へと進むと、「鶴は千年、亀は万年」のフレーズでもおなじみのポピュラーな縁起もの、鶴と亀をかたどった作品が出てくる。加藤龍雄による《岩上鶴亀》は銀を鋳造した置物で、大正時代に後の昭和天皇である皇太子裕仁親王結婚を奉祝して贈られたものだった。