伊藤若冲、横山大観の力作と対面
展示空間の奥のほうに、ひときわ華やかで鮮やかな絵画作品が掛かっていた。伊藤若冲の《旭日鳳凰図》だ。
遠目に見ても近づいても事物がくっきり浮かび上がってくるような繊細な描写が全体に施され、多彩だが抑えた色合いが画面に調和をもたらしている。激しく波が打ちつける岩上に竹が茂り、そこに超然と佇んでいるのは雌雄の鳳凰である。
鳳凰は古代中国で麒麟、亀、龍とともに「四霊」とされた架空の生きもの。その神秘さを、江戸時代を代表する絵師のひとり伊藤若冲は、渾身の筆さばきで表現し尽くしている。時を忘れて見入ってしまう一枚だ。
四霊の一角を成し慶兆のシンボルとされる麒麟も、会場で見つけられる。十二代 酒井田柿右衛門による《白磁麒麟置物》は、ムラなくつるりとした白磁の一色で、麒麟の凜とした聖性を表している。
勇壮で力強い守護神として崇拝されてきた唐獅子の姿もある。大正から昭和にかけて関東陶芸界の重鎮として活躍した二代 宮川香山の《青磁青華唐獅子文花瓶》は、花瓶の胴部分に唐獅子を堂々と描く。睨みをきかせながら絡み合う唐獅子の姿は、躍動感に溢れている。
さて会場の最奥部に据えられているのは、昇る朝陽に照らされ優美な稜線を浮かび上がらせている霊峰・富士山を描いた大作。横山大観の《日出処日本》だ。
昭和15(1940)年に開催された「紀元二千六百年奉祝美術展覧会」に出品するため、力の限りを尽くして描いたものとされる。大観は生涯に2000点近い富士山を描いたが、本作は最大級サイズの力作である。展覧会後に昭和天皇へ献上された。
改めて画面と対峙すれば、富士山のシルエットはじつに美しい。江戸時代の噴火でできた宝永山という中腹の盛り上がりなどは描かず、理想化された姿ではあるが、もちろんそれで構わない。あるべき姿・ありたい姿のままに表現できるのが絵画や美術のいいところなのだから。
会場で究極の日本美を一身に浴びて、我が身に吉を呼び込みたいところである。
INFORMATIONアイコン
瑞祥のかたち
皇居三の丸尚蔵館
1月4日~3月2日
https://pr-shozokan.nich.go.jp/2024inviting-fortune/