次期米国大統領のドナルド・トランプの若き日々を描いた映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』。そこで活写されるのは成功を夢見る20代の青年が弁護士のロイ・コーンに導かれる様子である。“怪物”トランプを育てたコーンはどのような人物だったのか。熱演したジェレミー・ストロングの独占インタビューをお届けする。

© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.

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――『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を一文で説明していただけますか。

ジェレミー・ストロング(以下、ストロング) 「今日の狂気は、昨日が生み出した」かな。11世紀のペルシャの詩人、オマル・ハイヤームの言葉だ。ロイ・コーンの父親は、このオマル・ハイヤームと彼の有名な叙事詩「ルバイヤート」が大好きだったんだ。そのハイヤームが、「今日の狂気は、昨日が生み出した」と言ったんだよ。この映画は、ひとつの世界観がどのように形成されるかを模索し、それを見せてくれる。また、1人のモンスターが別のモンスターを創り出す、フランケンシュタイン物語とも言える。

――あなたがこの作品に関わるようになったきっかけは?

ストロング 数年前に、ジェームズ・グレイ監督の仕事でテルユライドにいた時に、アリ・アッバシに出会った。それ以前に、彼が手がけた『ボーダー 二つの世界』を観たことがあったし、テルユライドでは、彼の『聖地には蜘蛛が巣を張る』を観た。彼には驚いたよ。とても大胆な映画監督であり、デヴィッド・リンチ的な変幻自在の感覚を持っている。また、ゲイブ(ガブリエル)・シャーマンは、僕がテレビの仕事でルパート・マードックやFOX局関連のことに関わっている時に、ゲイムが書いたロジャー・エイルズの本を読んだことがあったから知っていた。この2人の組み合わせが、とてもパワフルで影響力があると思った。

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――ガブリエル・シャーマンの他の作品も読んだことがありますか?

ストロング ああ。読んだことがあった。彼のことは聞いたことがあり、彼の作品が好きだった。ゲイブの、厳密で体系的に調べ抜いたジャーナリスト的な正確さと、アリの、デヴィッド・リンチを思わせるパンク・ロックっぽいモンスター映画的な感覚との組み合わせが、独特な作品を作り出すと思った。実際にそうなったと思うよ。

――セバスチャン・スタンとの共演は、いかがでしたか?

ストロング 彼に関しては、いくら褒めても褒めきれないよ。この映画での彼の演技は、本当に見事で、現場で彼の仕事ぶりを間近で観ていても、ぎこちないところは全く見当たらなかった。あの役を自分のものとして内面化し、思いのままに演じることは、大きなチャレンジだったと思う。僕たちは、そのチャレンジに一緒に立ち向かったんだ。

――ロイ・コーンの役を引き受けようと思った理由は?

ストロング 僕はいつも、大きな変化が求められる役や、リスクが伴う役を探している。この映画は、その両方を極限まで高めたかたちで提供してくれた。

――このような役の役作りは、どのようにするのですか?

ストロング 探偵のようになって、可能な限りのことを学んで吸収するように努め、あらゆることを内面化するんだよ。ロイ・コーンに関しては、多くの資料が存在する。本もたくさん書かれてきた。伝記もいくつかある。コーン自身も数冊の本を書いている。映像も、記録も、ビデオも存在する。だからそれらを全て調べるんだ。そして僕は、彼の本質を捉えるために、体づくりもした。でも実際の本人の姿は、ある意味で僕にとっては謎のままだから、そうやって散々リサーチをして掘り起こし、掘り尽くした後は、自分が演じる人物を直感的に理解し、無意識のうちにその人物の本質を表現できることを願うんだ。

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――演じる準備ができたかどうかは、どうやって分かるのですか?

ストロング 撮影現場に行くまでに、準備を終えなければならない。台本をしっかり読み、台本が存在しいたことさえ忘れるほど自分のものにして、準備の段階で組み立てていたいわゆる「足場」は全て外し、役を作っていたということを忘れて役になりきるんだ。

――マリア・バカローヴァとの共演は、いかがでしたか?

ストロング 素晴らしい俳優だよ。一緒のシーンはとても少なかったけどね。彼女が演じる役とロイとの関係は、とても複雑なものだった。ロイは、彼女が自分とドナルドとの個人的な関係を脅かす存在だと感じていたと思う。彼は、ドナルドに対する一種の礼儀として、邪魔者と思える存在からドナルドを守ろうとしたんだ。

――ロイ・コーンとは、どのような人物だったのですか?

ストロング 彼は、カエルの剥製でいっぱいの部屋を持つ、謎めいた人物だった。また、ジュリアスとエセル・ローゼンバーグ夫妻を、電気椅子に送った人物だ。マッカーシーの公聴会では、主任弁護士を務めた。恐るべき弁護士で、勝つことしか考えていなかった。彼が花形弟子に教えたのは、偽りやうそ、そして悪影響しかなかった。私たちは皆、その結果をとても恐ろしいかたちで体験しているんだ。

――ロイ・コーンの世界観は生き続けているのですか?

ストロング まだ存在している。全てを否定し、何も認めず、決して負けを認めない、攻撃するという姿勢の中に生きている。この映画が探究していること全ての中に、脈々と生きているよ。彼は、徹底的に現実を否定した。客観的な現実も否定したし、自分自身の現実も否定した。何かに強く反抗するようにね。彼は所有していたヨットに、「反抗」という名前をつけたほどだ。彼は反抗的な人物で、彼の反抗と否定主義は、今の時代にも影響を及ぼしていて、僕たちは皆、それを体験していると言える。

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――ロイ・コーンは、なぜトランプの助言者的な存在になることを選んだのですか?

ストロング 彼らは二人とも、ニューヨークの都会育ちで、親との関係で傷ついてきた。彼らの親は、何とか周囲の者たちの上に立ち、権力を求めて、特別な存在になろうとして、だからロイは、ドナルド・トランプがある意味で同類であると感じ、師匠のもとで学びたいという姿勢を彼から感じだのだと思う。

――映画ファンたちが、『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を観に押し寄せるべき理由は?

ストロング 僕たちは、この国の歴史の中で、これまでにないような時に直面しているよね。この映画は、僕たちをここまで導いたものの核心に光を当てる。この映画で描かれている人間関係と時代は、現在僕たちが目の当たりにしている政治的状況を予測しているんだ。

――アリ・アッバス監督は、この映画で何を伝えたいと思ったのでしょう?

ストロング この映画を作ることは、ある意味で火遊びのようなもので、危険が伴うことを僕たちは理解している。アリ本人も言っているが、彼が意図したことは、それを鏡に映すことだ。シェイクスピアも書いている。僕たちは、自然に対して鏡をかざし、その時代の年齢、体、形や圧力を示すのだとね。この映画は今日僕たちが知っているドナルド・トランプを形成した力と圧力を模索しているんだ。だから、この国や世界に住む人たちが、その力と圧力とは何だったかを理解するのは、とても重要だと思う。

【STORY】20代のドナルド・トランプは危機に瀕していた。不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ、破産寸前まで追い込まれていたのだ。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会う。大統領を含む大物顧客を抱え、勝つためには人の道に外れた手段を平気で選ぶ冷酷な男だ。そんなコーンが“ナイーブなお坊ちゃん”だったトランプを気に入り、〈勝つための3つのルール〉を伝授し洗練された人物へと仕立てあげる。やがてトランプは数々の大事業を成功させ、コーンさえ思いもよらない怪物へと変貌していく……。
 

監督:アリ・アッバシ
脚本:ガブリエル・シャーマン
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マリア・バカローヴァ、マーティン・ドノヴァン2024年/アメリカ/英語/123分/カラー/ヴィスタ/字幕翻訳:橋本裕充/R-15配給:キノフィルムズ コピーライト:© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.公式サイト: https://www.trump-movie.jp  公式X:https://x.com/trump_movie_JP 1月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

 

提供/(株)キノフィルムズ