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「住んでいる地域も24歳のときとは全然違っているのに、前から歩いてくる男性が誰なのか、はっきりとわかりました。とっさに隠れようとしましたが、向こうから声を掛けられたんです。かつて私から離れた、現在の夫に。20年以上昔のまま、定職にもつかず、ふらふらと気ままに生きていました」

 そんな男の何がいいのか、という率直な声もあるだろう。だが吉野さんはこんなふうに話す。

「確かにダメな人です。交際しているときでさえ、ヨソの女のところに行って『1回ヤッただけで彼女面してくるんだよ』みたいな愚痴をこぼすような、どうしようもない人です。

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 ただ、私にとっては、どんなに私が彼を拒絶しても、彼が私から離れなかったという事実が大切なんです。しょうがないな、と思いながら構いたくなってしまう何かがあるんですよね。危なっかしくて、放っておけない人なんだと思います。

 私はこれまで、真面目なタイプの男性とも交際したことがあるのですが、その中には手をあげる人もいたんです。でも夫は、そうした暴力は絶対にしないし、本当に心根が悪くて犯罪を犯したようには思えないんです。義理人情に厚い人柄も、放っておけない理由かもしれませんね」

吉野さゆりさん

自ら警察署へ出向いて捜査に協力、最終的には示談金も吉野さんが支払った

 しかし2021年に人身事故を起こし、刑事裁判では5年弱を求刑された。。だが吉野さんが情状証人として法廷に立ち、夫を更生させる強い意志を示したこともあってか、判決は懲役3年弱になったという。裁判所が認めた吉野さんの行動力は、たとえばこんなことかもしれない。

 「2021年に交際をスタートさせて、すぐに『少し前にひき逃げをしたから示談金を工面してほしい』と相談を受けました。私は、犯罪行為を是としません。たとえ愛する人間であっても、きちんと刑事罰を受けさせなければと思いました。

 被害者の服装を聞いて、勤め先はすぐにわかりました。しかし電話をかけても、個人情報を理由に会うことができませんでした。そこで事故現場近くの警察署まで出向き、夫の話をして捜査に協力することにしたんです。最終的に、被害者の方へ謝罪をして、示談金をお支払いさせていただきました。もちろん、夫が犯した罪はそのようなお金で償えるものだとは思っておりません。しかし慰謝する気持ちを何かで表さなければ、私の気持ちが済まなかったんです」