2025年1月13日、成人の日を迎えた朝に、東京都江戸川区の自宅にいた東京女子医科大学の元理事長・岩本絹子容疑者(78)は、警視庁捜査二課に背任容疑で逮捕された。

 桜田門にある警視庁に連行された岩本容疑者は、ワンボックスの3列目シート中央に座っていた。報道陣に気づくと、岩本容疑者は素早く前に屈んで顔を隠す。女帝として君臨していた時の威厳は消えていた。

 かつて名門と言われた女子医大の経営トップ逮捕を、新聞やテレビは一斉に報じているが、捜査関係者からのリークを競っている感も否めない。この問題を最初から報道してきた筆者としては、事件の核心とは何か、そして女帝の不正を世に知らしめて逮捕に繋がった勇気ある内部告発者についてお伝えしたい。

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岩本絹子容疑者(東京女子医科大学120周年記念誌より)

1億円超を現金化してロンダリング

 東京都新宿区に位置する女子医大のキャンパスに、赤煉瓦色の外壁が特徴的な2つの校舎が2020年2月に完成した。岩本容疑者が約4.9億円の追加費用をかけて、理事長室を設置した「彌生記念教育棟」と、実験や研究を主に行う「巴研究教育棟」である。

 今回、岩本容疑者が逮捕された背任容疑は、2つの校舎について建築アドバイザー業務の実態がないのに、嘱託職員で一級建築士の男(60代)に高額な報酬を合計21回振り込み、総額約1億1700万円相当の損害を与えた、というものだ。

一級建築士の男と岩本容疑者の側近女性X 撮影・岩本倫彦事務所

 一級建築士の男は、毎月振り込まれた数百万円の報酬を現金で引き出し、一定の金額を岩本容疑者にキックバック(還流)していた疑いがある。振り込まれたカネを現金化して銀行の履歴を追えなくするのは、不正資金のロンダリング(洗浄)として常套手段だ。

 現金の受け渡し役になっていたのが、岩本容疑者の手足となって動いていた側近で女子医大の元職員の女(50代)(文春オンライン#12を参照)。現在、二人は事件の共犯者として、任意で取り調べを受けている。