「恥ずべき腐敗した決定だ。経済・国家安全保障上の同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険に晒した。中国の共産党幹部は北京の街頭で小躍りしているはずだ」

 1月3日、バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を禁じる大統領令を発表。すると、その直後、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は大統領を糾弾したのだった。

USスチールをめぐる「ディール」は…

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中国と対抗する機会を葬る、嫌がらせに等しい内容

 米在住ジャーナリストが解説する。

「不動産バブルの崩壊で不況が続く中国は、今、鋼材輸出でもうけようと東南アジア、中南米などの市場に猛烈な攻勢をかけている。1年前に比べ、アジアの鋼材価格は3〜4割ほど下落。日米鉄鋼業界の雄が手を結び、中国と対抗する機会を、あろうことか米国の大統領が葬り去ろうとしている。ブリット氏が怒り心頭なのもうなずけます」

 一方、2兆円を超える資金投入を覚悟して買収に乗り出した日鉄もいら立ちを隠せない。幹部の1人は「買収を認めないのは予測していたが、得体の知れない条項が付いている」と苦虫を噛み潰す。バイデン氏による大統領令で「買収計画の放棄を証明する文書を原則30日以内に提出せよ」と命じられたからだ。「大統領選挙の最中に面倒な案件を持ち込まれたのが、バイデン氏にとってよほど腹立たしかったのではないか。ほとんど嫌がらせに等しい内容だ」(自民党議員)。

昨年7月に不出馬を表明

囁かれる、バイデン氏の“癒着”

 米国でも、大統領令によって政治力を誇示するバイデン氏に批判の目が向けられている。

 USスチールが本社を置くペンシルベニア州で幼少期を過ごしたバイデン氏は、買収に終始反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長とも旧知の間柄。昨年の大統領選でも同州は激戦区となったが、こんな生臭い話も聞こえてくる。

「大統領選挙の1カ月ほど前、ブリット氏が買収成立後、USスチールを退任すると7200万ドル(約111億円)を手にする契約の存在が、民主党のリベラル派議員によって暴露された。またUSWのマッコール会長は米国2位のクリーブランド・クリフス社との癒着の噂が絶えません。日鉄が買収をあきらめれば、資金でも技術でもかなわないクリフスにもチャンスが生まれる。もしクリフスがUSスチールと合併すれば、マッコール氏を高い報酬で社外取締役として迎え入れる密約があるとも囁かれています」(現地特派員)