不安より高揚感に包まれた現場

─本作は昨今珍しいフィルム撮影ですね。

松坂 そうなんです! クランクイン前は、ワンテイクが大きな意味を持つので期待も不安も大きかったのですが。だけど、黒澤明イズムを継承したベテランスタッフの方々に囲まれると不安より高揚感に包まれました。監督から「現場の空気を感じ、素直に演じてください」と声をかけられたのも大きかったです。こうした信頼感に包まれる現場は幸せです。小泉監督が「キャメラが寄れば寄るほど登場人物から遠くなる。逆に遠くからズームレンズで捉えたら人物像に迫れる。なぜなら撮影を意識しない自然な演技を捕まえられるから」と言われたのも印象的でした。カットを遮二無二変えていくのではなく、アクション場面でもフレーミングの中で動くのが新鮮でした。本当に演じる充実度は高かったです。

 

『孤狼の血』以降、共演するたびに役所さんから学んでいる

─雪山のシーンは本編中の白眉でした。

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松坂 撮影は12月中旬に雪が積もった中で行いました。監督が何度も山へ足を運んで、「いまだ!」と決断した時の一発勝負でした。望遠レンズで撮影されていますから、雪に足を取られて倒れてしまったのですが、カットがどこでかかったのかを覚えてないほどです(笑)。これぞリアリズムという体験をしました。

―役所広司さんとは、医療の師弟関係という間柄ですね。

鼎哉の下で治療法を探す日々 ©2025映画「雪の花」製作委員会

松坂 蘭方医・日野鼎哉として登場した役所さんの演技は、「この先生に学ぶことはたくさんある」と思わせる存在感が漲っていました。演じていると良策と鼎哉の師弟関係が僕自身の体験に混じり合うような、そんな感覚に陥るんです。『孤狼の血』(18年)でご一緒して以来、共演するたびに役所さんには何かしら教えられます。