2016年に乃木坂46を卒業して以来、俳優としてのキャリアを着実に重ねてきた深川麻衣。そんな彼女の最新作は、のどかな田園風景が広がる村を舞台に、一般社会から隔絶したムラ社会の闇を描くスリラー『嗤う蟲』だ。初めて脚本を読んだとき「ゾワゾワした」と言う本作で、深川は田舎でのスローライフに憧れて移住したはずが、村の「掟」に引きずり込まれていく若い夫婦の妻・長浜杏奈を演じる。
すべて夫任せというわけではなく、杏奈は「強い女性」
映画の序盤から村に取り込まれていく夫とは対照的に、一見おっとりしているが村や村人への違和感を隠そうとしない杏奈を、深川は「強い女性」だと言う。
「冒頭の杏奈は田舎で農業をやりたい夫についてきた妻のように描かれますが、移住先でもリモートでイラストレーターの仕事を続けています。子育てをめぐって夫と口論になれば『いままで積み上げてきたキャリアを失いたくない』とはっきり言える、じつは芯の強い女性。夫を信頼しているけれど、すべて夫任せというわけではなく、我が強いところもあって……。そんなふうに想像しながら杏奈をつくっていきました」
『嗤う蟲』はムラ社会の闇に迫る映画だが、必ずしも「村=悪」「主人公夫婦=善良」という単純な構図で描かれてはいない。たとえば杏奈は、保守的な村人への自己紹介でふだん仕事で使っている旧姓を当たり前のように名乗ったり、「#田舎移住」として写真をインスタに投稿したりと、人によっては「意識高い」「鼻につく」と感じかねない描写も多い。
監督からの演出はほとんどなかった
「監督からは撮影前に『夫婦をただの善人に見せたくない』と言われていました。とはいえ、杏奈たちはほかの土地から移住してきたよそ者です。とくに引っ越してきた当初は極端に受け身なので、村人からのアクションに対するリアクションで、監督の言う“ただの善良な夫婦でない”感じを表現する必要がありました。たとえば杏奈が村人から苦手な食べ物を勧められるシーンで、笑顔で遠慮しながらも、内心は嫌がっていることが透けて出るような愛想笑いを浮かべたり。そういう部分は意識しました」
そんな杏奈も、やがて村の掟に飲み込まれていく。気がつけば外堀を埋められていたかのような、じわじわとした追い詰められっぷりは本作の大きな見どころのひとつだが、意外にも監督からの演出はほとんどなかったという。
「杏奈のイライラを表現するために『顔は笑ったまま足は貧乏ゆすりして』といったピンポイントな演出はいくつかありましたが、基本的には私に委ねてくださって。城定監督とご一緒するのは初めてだったこともあり、最初は不安に感じることも。ただ、監督は芝居の流れを確認する段取りからしっかり見てくださるし、カメラ割やアングルを決めたうえで撮影に臨む方なので、そこに対する信頼は早々に感じていました。それに“追い詰められる”という意味では、共演者が個性豊かで実力のある方ばかりだったので……」