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「モキュメンタリー」(mocumentary)は「フェイクドキュメンタリー」(fake documentary)とも言い、ドキュメンタリー映像の形式を模した創作である。ファウンドフッテージの中身は、定義としては創作物も入るのだが**、大半は現実世界を撮影したものという設定になっており、その意味で、ファウンドフッテージを内容に含む作品は同時にモキュメンタリーであることが多い。

現代ネットホラーの先駆け「これって何?」

 いずれのジャンルも、再媒介化の2つの側面──複媒介性と無媒介性──を存分に利用している。フィクションとして分析するならば明らかに複媒介性を主張しているが、ファウンドフッテージなら「自分が作ったものではない」、モキュメンタリーなら「写されているのが現実である」、アナログホラーなら「デジタル的な加工編集が難しい」とする認識にも寄りかかっているため、映し出されるものは無媒介性を同時に強調している。そのため、こうしたジャンルの作品は成功すればするほど、視聴者に「これは事実なのだろうか?」という思いを抱かせる***。視聴者によっては本当に起こったことではないかと受け取り、たとえ初出のメディアではネットホラーとして受容されていたとしても、再媒介化(転載や切り取り動画など)が繰り返されることにより、ネット怪談に変質してしまうこともある。こうした再媒介化がほとんど誰によっても可能になっているインターネットでは、そうした変化はよく見られるものである。第1章では、作者の存在が認識される創作ジャンルとしての「ネットホラー」と、共同構築される伝説ジャンルとしての「ネット怪談」を区別したが、実際上、このあたりの線引きは微妙なのである。本章がファウンドフッテージやモキュメンタリー、アナログホラーを取り上げるのにはこうした理由がある。したがって、概念的に近ければネットホラーのみならずネット怪談にもこれらの用語を使うことがある。

 ここではまず、古い映像にまつわるネット怪談をとおして、現代のインターネットで流通している「怖さ」というものを見てみたい。

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撮影したはずのない「謎の映像」が続々と集まり……

「これって何?」は、今ではほとんど知られていないが、ファウンドフッテージ型のネット怪談である。最初にオカルト板にスレが立ったのは2003年10月26日未明で、そのときのタイトルが「これって何?」だった2。投稿した報告者によると、映画を録画していたはずのビデオを再生したところ、表示されたのは自分が歩いている姿が延々と映っている映像だった。しかしそんなものを撮影した記憶はまったくないのだという。ほかの参加者たちは報告者にいろいろと質問を繰り返すが、要領を得ない。