謎が謎を呼び「恐怖」が生まれていく
その後、再生中のテレビを撮影した画像がアップロードされたが、砂漠か平野のような場所であること以外は何も分からない(図30、報告者の姿が黒塗りされている)。さらに、報告者が最初に見たときはあったはずのシーンが失われ、いつの間にか別の暗くて何が写っているのか分からないシーンや、見知らぬ男性の顔が写ったシーンが追加されているという怪奇現象も起きる。参加者のなかには、自分も同じように、ビデオカメラさえ所有していないのに砂漠のような景色を歩いている映像が録画されていたと投稿する者も現れた(177番目の書き込み)。その後「これって何?まとめサイト」ができ3、情報が集約されたが、6番目のスレが11月10日に1000レスまで到達し4、何も謎が解かれぬまま、騒動は終わる。
これって何?は、実写映像は撮影者が外界を撮影したものという常識を前提として、その過去に不気味さや不穏さを与えることで成立したネット怪談である。映っているもの自体は超自然的ではないが、映された経緯に分からないものが多すぎる。ファウンドフッテージの概念もまだ広まっていなかったこの時代にあって、これって何?は孤立した存在であり、実際、その後のネット怪談言説においても話題になったことはない。また、現在の観点から見るならばいかにもアナログホラー的だが、当時はVHSや8mmテープなどのアナログメディアが現役だったので、そうした印象は時代錯誤である。むしろ、出所不明のメディアがネット上で共有され、匿名の人々の集合知によって考察が進められていく──共同構築されていく過程の初期の一例として見ることができる。
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* 近年の日本におけるモキュメンタリーについては、吉田 2024a; 朝宮 2024 にて作家たちが語っている。
** 映画『リング』(1998)における「呪いのビデオ」もファウンドフッテージということはできる。ただし「呪いのビデオ」は現実の景観を撮影したものではなく、山村貞子がイメージを念写した創作物である。
*** The Backrooms (Found Footage) を、とある大学の講義で見せたとき、本物の記録映像かもしれないと思ったという学生がいた。
1.「フェイクドキュメンタリー「Q」」 (2021年4月1日チャンネル登録)
2. https://hobby4.5ch.net/test/read.cgi/occult/1067094469/