「見たことがあるはず」の映像なのに、実際には存在しない。インターネット上には、そんな「ネット怪談」が数多く存在する。ネット怪談を民俗学の視点から紐解いた書籍『ネット怪談の民俗学』から一部抜粋し、こうした怪談の代表例である「NNN臨時放送」と「ヒトガタCM」と呼ばれる映像を紹介していく(全2回の2回目/前編を読む)

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NHKの放送終了後、「受信料未払い者リスト」がテレビで流れていた?

 ファウンドフッテージは、どういう状況であったにしても見つかったもののことである。見つからないままのものを英語圏では「ロストメディア」(lost media)という。ロストメディアは単に古いから残されていないだけのものもあれば、諸々の事情があって公式には存在していないとされるものもある。

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 他方で、インターネット時代に入って、個人が録画保存していたものが頻繁に掘り起こされるようになり、ロストメディアはそれだけで大きな文化的ジャンルとして成長することになった。たとえば2012年1月に設立された英語圏の代表的なまとめサイト Lost Media Wikiは数千にも及ぶロストメディアの探索状況を掲載している1。そこに超自然的な、あるいは非合理的な要素が見られるとすれば、それは容易に怪談に転化しうる。映像にまつわる不穏な過去は、映像本体がなくても成り立ちうるのだ。

 たとえば、2009年3月15日に公開されたクリーピーパスタ「キャンドル・コーヴ」(the Candle Cove)は、幼児番組の思い出を語っていた電子掲示板が舞台である。徐々にその番組(人形劇)が異常な内容であることが分かっていき、最終的に、自分たちが見ていたのは夜中の砂嵐だったという結末になっている2。これはクリーピーパスタなので創作であり、個人が最初から完成された作品を発表したものであるが、かすかに記憶に残る不気味な映像を電子掲示板で話し合うことは、2ちゃんねるでは現実に起きていたことだった。

※写真はイメージ ©PantherMediaイメージマート

 有名なのが「NNN臨時放送」(または「明日の犠牲者」)である。もともとは2000年11月、2ちゃんねるテレビ板の「何故か怖かったテレビ番組~第四幕目~」に投稿されたものである3。図31に引用したとおり、国家権力か、あるいは超常的な力が人間を計画的に「処理する」というディストピア的な想像を掻き立てられる投稿である。ことによっては異世界からの放送が紛れ込んだのかもしれないし、死神が映像として現れたのかもしれない。

 この番組は、ほかに見たという者がおらず、それがまた不穏さを増幅させているが、情報が限られていたため、はじめのうちは投稿のコピペが繰り返されるにとどまった。なお、怪談ではないが、NHKの放送終了後、砂嵐に続いて多くの人名が表示されることがあり、それは受信料を払っていない人の一覧だったという有名なうわさ話がある。1970年ごろから知られている4