「グロさ」も「心霊要素」もないのに、怖すぎると話題になった「謎のCM」
同じように不気味なテレビ映像のロストメディアとして知られているのが「踏切ヒトガタ」というCMである。このCMには、NNN臨時放送とは異なって多くの人々の目撃証言がある。それにもかかわらず、はっきりと踏切ヒトガタと言えるCMが見つかっていないことが、この映像をネット怪談と呼んでもいいものにしている。ネット上で最初に報告されたのは2ちゃんねるの広告・CM板にあった「(・∀・) 怖いCM第9夜(・∀・)」というスレで、図34のとおりである10。
この投稿に対しては、自分も記憶があるという返信がすぐに複数あり、曖昧だが「白い人型」を再現した画像へのリンクも投稿された。同月9日にはこの画像から簡単なFLASHアニメが作られ(図35)11、展開としてはNNN臨時放送と同じような逆行的オステンションが進められていった。ただ、スレンダーマンのときもそうだったが、あくまで再現でしかない動画が、「再現である」という情報を脱落させて無媒介性を強めることにより、本物の不気味なCMだと見なされることもあった。
とりわけ、踏切ヒトガタのFLASHが「グロでも心霊でもないけど怖いCM」というコンピレーション動画としてニコニコ動画にアップロードされた際は(2007年6月11日12)、キャプションをよく読まないとそれが再現であることが分かりづらく、おまけに動画冒頭に配置されていたため、実際にこの映像が流れたという勘違いを生むことになった。
踏切ヒトガタの映像は、最初の投稿から20年経った現在もなお熱心な探索が続いているものの13、いまだに発見されていない。これまで広告・CM板などでは多くの奇妙なCMが発掘されてきたので、これほど話題になっていても映像一つ拾えないのは不思議なことである。現在では国外にまでhitogataという表記で広まっているが、手がかりはつかめていない。
踏切ヒトガタは、大量の死を直接的に扱っているのみならず、「人間」ではなく「ヒトガタ」──丑の刻参りなどの呪詛に使われそうな形象──が映し出されているという点でも不穏である。加えて、20年にもわたる探索という大規模な共同構築によってもその不確定性を払拭できない点が、逆説的に不穏さを強めている。もちろん、ある時点で現物が発見されて不安が一気に解消することはあるかもしれない。だがそのときまでは、踏切ヒトガタは言いようのない恐怖を持続しつづけるはずである。
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1. The Lost Media Wiki, https://lostmediawiki.com/
2. http://www.ichorfalls.com/2009/03/15/candle-cove; 現在は“NetNostalgia Forum - Television (local)”, https://ichorfalls.chainsawsuit.com/。庵田 2023b: 285–286 参照
3. https://curry.5ch.net/test/read.cgi/tv/971752442/ の206
4. http://www05.u-page.so-net.ne.jp/gc4/roti-rot/u_legends/u_led/city/c_rumor_33.html( 2000年10月23日)
5.「この信じられぬ世界からの報告」1968: 123
6. Sconce 2000: 144, cf. ibid.: 124
7. パリッカ 2023: 80; Sconce 2000: 126–127
8. http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Oak/5703/
9.「都市伝説 ─ NNN 臨時放送─」、「NNN 臨時放送」
10. https://tv6.5ch.net/test/read.cgi/cm/1088596641/ の854
11.「怖いCM」
13. https://w.atwiki.jp/commercial/pages/24.htmlは、2024 年も更新されているまとめサイト。「ヒトガタCM 捜索スレ4」は、5ちゃんねるにおける探索の本拠地。「【都市伝説?】徹底検証!謎のCM「白いヒトガタ」の正体に迫る! これまでの経緯総ざらい【不気味なCM】紲星あかり」は2020 年4 月20 日にYouTube に投稿された考察動画。“The Creepy "Hitogata" Japanese Commercial -Lost Media Case Files Vol 3 | blameitonjorge”は2021 年4 月25 日にYouTube に投稿された、英語圏の怪奇映像考察系YouTuber による探索の過程。