故人のご遺体を火葬し、その人生を締めくくる場所「火葬場」。今でこそクリーンな運営をしている場所が多いが、かつては火葬場でさまざまな事件が起きていた。いったい、どんな事件が起きていたのか——。
ここでは、元火葬場職員・下駄華緒氏が、火葬場で起きた事件を徹底調査してまとめた書籍『火葬場事件簿 一級火葬技士が語る忘れ去られた黒歴史』(竹書房)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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「殺してやりてえなあ」会長が社長の監禁をそそのかす
にわかに大騒ぎとなった従業員たちだが、ここで何もしなければ誤解は解けたであろう。社長や場長から講習会の趣旨を説明されれば、ただの勘違いで済んだ。
しかし、彼らを犯行に駆り立てる黒幕がいたのだ。
それが、あの会長である。
「殺してやりてえなあ。かまのなかに入れてくべちゃいたいくらいだ」
そう言って、彼らがこの火葬場からクビにされると思いこませて犯行をそそのかす。
「お前ら3人で社長をかまのなかに入れなきゃ、お前らはなめられる」
さらに会長の隣にいた男も同調する。
彼は火葬場の出入り業者である46歳の男。地元で茶店を経営しており、会長と昵懇(じっこん)の間柄だ。もとは前社長時代に、茶店を引き出物業者としてつなげた見返りに金銭をキックバックするなど、会長と共犯的な関係を築いていた。裏で闇金を営んでいたといい、ことあるごとに暴力団関係者との付き合いを口にする人物だった。
具体的な手順や方法を細かく指示
しかもこの男、会長の威光をバックに火葬場内へ深く入り込んでいた。出入り業者でありながら、Aの実質的な上役のようになっていたのだ。
引き出物の納入先を拡大しようと、Aに火葬場に出入りする葬儀業者に嫌がらせや脅しをかけさせたり、ほかにも市職員や役員、関係者たちへ因縁をつけたりさせて、自分たちに都合のいいように仕事を進めるための手先として利用していたのだ。脅しの方法も、この男が詳しく仕込んだものだという。
また、この男から会長へキックバックされた金は、Aら一部の従業員にも流れていたという。そうした共犯的な関係もあり、この男とAのあいだには強固な上下関係が築かれていた。
そしてこのときも男が社長を監禁する計画を立て、具体的な手順や方法を細かくAに指示した。