自分のリアリティというものに向き合おうとするから、僕は要領がよくない。同じ頃、テレビドラマで共演させていただいた緒方拳さんが父に言ってくれたんです。「こいつはそんなにすぐにできるタイプじゃねえ。時間がかかるんだから、お前もうちょっと時間かけろ」と。
内田 さすが緒方さんですね。よく見ていらっしゃる。
浅野 父も緒方さんに言われればなるほどと思う。ちょうど90年代のインディーズ映画のブームがきたので、それに乗っかってしまいました。
内田 是枝裕和さん、岩井俊二さん、青山真治さんなど当時の若手の監督さんに浅野さんは引っ張りだこでしたね。
映画界で活躍していたが…20代後半で感じていた“葛藤”
浅野 でも葛藤はあったんですよ。だんだん同じようなことをやっているような気もしてきた。そんなとき相米慎二監督に出会い、「浅野君はバカなんだから、台本を何回も読みなさい」と言われました。
内田 『風花』の撮影のときですか。
浅野 はい。だから20代後半です。どういう意味だろうと思って、本当に台本を何回も読むようにしたんですね。すると、10回読んでいると同じようなフィルターで読んでいるから飽きてくる。でも11回目からは違う見方をしたくなる。12回目は別の役の立場から、13回目はヒロインになったつもりで読んでいた。そうすると自分の役がよく見えるようになるんです。だから今でも台本を読んでいると、1人で何役もやるので、「おい、何やってたんだよ」「お前こそ何やってたんだよ」……と、まるで落語のようですよ。
内田 『SHOGUN』でハリウッド俳優としてさらに確立されて。
浅野 いや、まだまだですよ。
内田 そんな浅野さんはアーティストでいらっしゃるからこそ無言館でお目にかかりたいと思ったんです。昨年夏、ロンドンのジャパン・ハウスにあるギャラリーにふらっと入ったら、浅野さんの作品が展示されていて、魅入ってしまいました。
浅野 まさか見ていただいたとは。うれしいなあ。