健康長寿の秘訣は睡眠時間の長さだけではない……。国内最高峰の研究所、国立精神・神経医療研究センターで睡眠・覚醒障害研究部室長を務める吉池卓也氏が明かした、適切な睡眠の取り方とは?
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「7時間も寝たのに、体が休まった気がしない」
朝起きて、「昨晩は7時間も寝たのに、体が休まった気がしない」と感じることがあります。これを睡眠研究の世界では「睡眠休養感がない」と表現します。最近の研究で、健康状態と睡眠休養感が大きく関係していることがわかってきました。また不思議なことに、長時間寝ても、睡眠休養感が上がるわけでもないのです。
ただし、自分が本当に何時間寝たのか、正確に答えられる人は、実は少ないものです。「11時に寝て、朝6時に起きたから、7時間寝ました」と答えられても、それは「11時に布団に入って、6時に床から出た」ということ。寝付くまで多少は時間がかかりますし、本人が気づかないだけで夜中に眠りから覚めることもあります。「寝床にいる時間」(床上〔しょうじょう〕時間)=「睡眠時間」ではない、と理解してください。
前述した通り、睡眠時間は年齢とともに短くなりますが、55歳くらいから床上時間が延びていくことがわかっています。歳をとるほど、実際に眠れる時間よりも、長く寝ようとしているわけです。
床上時間8時間以上の人は、死亡リスクが高まる
ところが、シニア世代で床上時間が8時間以上の人は、死亡リスク(総死亡率)が高まることが、私たちの研究で明らかになったのです。
私が所属する国立精神・神経医療研究センターで、睡眠の質と量が、寿命と健康にどのように関係しているのか、約6000人(40歳以上)を平均11年間、追跡調査したデータをもとに分析しました(結果は、2022年1月にイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』で発表)。
着目したのは、実際の睡眠時間、床上時間、睡眠休養感の関係です。実際の睡眠時間と床上時間を明確に区別するために、携帯型脳波計を使って、脳波を測定しました。本当に眠っているのか、横になっているだけなのか、その違いは脳波で区別できます。
加えて、参加者には朝目覚めた時に睡眠休養感を5段階で申告してもらいました。起床直後に回答してもらうことで、さまざまなバイアスを避けることができるからです。