吉原の伝説の遊女、花の井とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「吉原遊郭の中でも一番格上の女郎屋である松葉屋の遊女となり、五代目瀬川の名跡を継いだ。彼女の波瀾万丈の生き様は江戸中の注目を集めた」という――。
あの平賀源内の心をとらえた花魁・花の井の正体
吉原の花魁である花の井を演じる小芝風花の演技に注目が集まっている。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。実際、気高さとはかなさが絶妙にバランスされた花の井像は、往時のトップの花魁を思わせる。
第2回「吉原細見『嗚呼御江戸』」(1月12日放送)では、彼女の男装も楽しめた。この回は、吉原のガイドブックである「吉原細見(さいけん)」に工夫を凝らしたいと願う蔦屋重三郎(横浜流星)が、その序文を平賀源内(安田顕)に依頼することを思いつき、それを実現するまでが描かれた。
蔦重に連れられて吉原にきた源内は、「ここには瀬川はいないのか」と聞いた。吉原で「瀬川」といえば、吉原中でもとりわけ格が高かった松葉屋の看板遊女の名跡だが、このときは空席だった。源内が言うのはその瀬川だと、周囲が思い込んだのはもちろんだが、そうでないと見抜いたのが花の井だった。
源内は男色で有名で、彼にとっての「瀬川」とは、すでに世を去っていた歌舞伎役者の二代目瀬川菊之丞だった。そこで瀬川は、男装で源内の前に現れて「わっちでよければ瀬川とお呼びください」と伝え、源内の心をとらえたのである。
歴代の「瀬川」の短い生涯
この花の井は歴史上に実在した人物で、のちに前述の瀬川の名跡を継いだため、「五代目瀬川」と呼称される。この瀬川、初代から九代目までが伝えられている。
享保年間(1716~36)に名を馳せた初代瀬川は医者の娘で、武士に嫁いだが、夫が盗賊に殺害されたために遊女に身をやつしたという。その後、夫の敵討ちを見事に成し遂げたのち、尼になったといわれるが、そのあたりは史実であるかどうか定かではない。