一番難しかったエンドロールの演技

 灯は震災を体験していないが、両親が体験した重荷に苛まれている。在日の重み、沈む心の重みも背負っている。灯役の富田さんは初日の舞台あいさつで語った。

「震災、在日、双極性障害と凄いパワーワードが飛び込んでくるんですけど、普通の女の子が様々な揺らぎを抱えている中での出来事だと。それに気づいて腑に落ちました」

 一番難しかったシーンはエンドロールだったという。灯が道路沿いにたたずむ姿を5分余り、カメラを回しっぱなしの「ワンカット」で撮り切っている。

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「灯のこれまでの人生を5分という時間で表現してほしいっていうオーダーが一番難しかった。撮影後、監督に『違う、もう1回』って言われたのを鮮明に覚えてます。『わかってるよ』ってちょっと言い返したりしましたね」

 エンドロールの直前、灯が父親に電話する場面も10分以上の長いワンカットだ。港をはるかに臨む高台の公園。電話を切ってしばらく、灯の呼吸の音が聞こえてくる。だが冒頭のせわしない呼吸とは少し違う。心境の変化が息遣いに表れている。そこに響く船の汽笛。いかにもミナト神戸だ。こうした『音』と、間を作る『無音』が、この映画の隠れた見どころ(聴きどころ)かもしれない。

『港に灯がともる』

1995年の震災で多くの家屋が焼失し、一面焼け野原となった神戸・長田。かつてそこに暮らしていた在日コリアン家族の下に生まれた灯(あかり)。在日の自覚は薄く、被災の記憶もない灯は、父や母からこぼれる家族の歴史や震災当時の話が遠いものに感じられ、どこか孤独と苛立ちを募らせている。一方、父は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れていた。ある日、親戚の集まりで起きた口論によって、気持ちが昂り「全部しんどい」と吐き出す灯。そして、姉・美悠が持ち出した日本への帰化をめぐり、家族はさらに傾いていく――。

監督・脚本:安達もじり/出演:富田望生、麻生祐未、甲本雅裕、伊藤万理華/2025年/日本/119分/配給:太秦/©Minato Studio 2025/全国順次公開中