「震災」「在日」「双極性障害(躁うつ病)」
灯は精神科クリニックに通っている。双極性障害だ。かつて「躁うつ病」と呼ばれたが、うつ病とは違い、躁とうつとを繰り返す。成人式の後は、気前よくケーキを買うなど「躁」状態だった。しかし両親の折り合いは悪く、家庭に冷たい空気が漂う中、次第に「うつ」の症状が重くなり、職場を辞めることになる。
「震災」「在日」そして「双極性障害」。一つだけでも重たい現実が、灯の人生に3つのパワーワードとなってのしかかる。そこからどのように自分の生きる道を見出していくのか? 物語はそこを軸に描かれる。
うつ状態が改善した灯は、再び就職をめざす。しかし「療養のため退職」という経歴がネックになってなかなか採用が決まらない。友達の家を訪れ相談にのってもらう場面で、テーブル上の買い物袋がチラリと映る。白黒の格子模様に「ikari」の文字。「いかりスーパー」の袋だと、神戸の人ならすぐわかる。同時に、この家は経済的にゆとりがあることもわかる。「いかり」は神戸の「成城石井」なのだ。こういう細かい描写に神戸愛を感じる。
「生きとったらいろいろあるわな」
神戸市中心部の元町にある設計事務所。灯はここで採用面接を受ける。事務所のサイトにあった「それぞれの暮らしやすさに寄り添う」という言葉にひかれたからだ。
「私もいろんな出来事に直面して、暮らしやすさ、生きやすさって本当に人それぞれだと思うので、そういう安心できる場所を作る仕事ができたらなと思いまして」
病気のことも、友達のアドバイス通り率直に打ち明けた。すると設計士の男性は、
「まあ、生きとったらいろいろあるわな(笑顔)」
この言葉に灯は救われる。観ている僕も救われた。僕自身NHKに勤めていた時、双極性障害と診断され、計2年間休職したことがある。「人生いろいろあるさ」と考えられれば、どれほど救われることか。
こうして灯はこの設計事務所で働き始めた。通勤途中に映る南京町(元町の中華街)が懐かしい。先輩と仕事終わりに訪れた居酒屋。設計士の男性が来ないのはなぜだろう? 灯が尋ねると、その理由が明かされる。なるほど、だから彼は「人生いろいろ」と実感込めて語れるのか……。