「昨日まではいろんな肩書がありましたが、今日からはただの宮崎南高5回生の清武です」と挨拶した。そして、プロ野球の育成選手たちが、秘めていた能力を開花させ、一流の階段を駆け上がっていった数多くの事実を紹介し、こう語りかけた。
「すべての人が、自身も気づかない『ビッグツール』を持っています。自分の中の一芸を探しましょう。情熱を持ち続ければきっと大きな能力が見つかります」
──これは俺自身に向けた言葉でもあるんだな。
そう思いながら講演を終え、弟の運転する車で実家に向かった。東京から飛んできたスポーツ記者やテレビ局の記者らがゾロゾロと実家に続く農道を車でついてきた。
「あっ清武だぁ」と中学生に指さされ・・・
それから多くのメディアに取り巻かれ、実家まで招かれざる記者たちにまとわりつかれた。花束を持って実家の玄関口に現れた週刊誌の記者もいた。わが母親は追い払ったという。「あんな萎れた花で取り入ろうたって、そうはいかんよ」。母は意気軒昂であった。
実家と地元紙の新聞販売店を継いだ次弟は無口だった。弟は読売の販売店と拡販競争を繰り広げており、巨人嫌いである。「いろいろあるじゃろが、まあ頑張りなよ。命までは取られんじゃろ」
確かにいろいろあった。
「解任に伴い、読売の社友資格を取り消した」という通知、「あなたは退職後医療共済の会員資格を喪失しました」旨の連絡、解任された日付けで一方的に「読売グループ本社役員持株会を退会した」とする通知……それらが読売から次々と配達証明付き郵便で団地の我が家に届く。そして読売グループからの訴訟である。
──組織に反旗を翻すとこんな目に遭うのだな。
そう思いつつコンビニに出かけると、中学生たちに「あっ、清武だぁ」と指さされ、スーパーで「あんた、清武の乱の人だね。こんなところで何やってんの」とおじさんに同情される。特にスーパーでの日中の買い物は落ちぶれたという印象を与えるらしい。
※本記事の全文(約1万2000字)は「文藝春秋 電子版」でご覧ください(清武英利「連載 記者は天国に行けない」)。「文藝春秋 電子版」では、連載のバックナンバーも全てお読みいただけます。
■「記者は天国に行けない」
第22回 座を立て、死角を埋めよ第23回 「やるがん」の現場へ
第24回 情けをかけてはいけません
第25回 辞表を出すな
第26回 奇道を往く
第27回 スカウトは獲ってなんぼや
第28回 それが見える人
第29回 誰も書かないのなら
第30回 OSが違っていても
第31回 志操を貫く
第32回 曲がり角の決断
第33回 告発前夜
第34回 独裁者の貌
第35回 悪名は無名に勝るのか
第36回 おかしいじゃないですか
第37回 再起への泥濘(ぬかるみ) <<今回はこちら

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