麻雀にはまって人生を狂わせた17人に取材した実録ドキュメント『ルポ 麻雀に狂った人たち』(竹書房)。ここでは本書より一部を抜粋して、仕事帰りに寄る雀荘から抜けられなくて離婚にまで至った新田博志(仮名)さんの事例を紹介する。
事の始まりは学生時代、雀荘で働きだしたのが「地獄の一丁目」だった――。(全2回の1回目/続きを読む)
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麻雀にハマった学生時代 そして中退
新田さんが麻雀を覚えたのは高校時代。地元の公立高校で、クラスメイトに誘われてルールを覚えた。
「フリー雀荘に憧れながら『近代麻雀』を必死に読んでいましたね。大学生になったら雀荘で打つぞ! という気持ちでいっぱいでした」
高校を出て地元の私立大学に入学、ほぼ同時にフリー雀荘に通うようになる。
「毎日楽しかったですねー。初めはぎこちなかったけど、店にある麻雀漫画を片っ端から読んで、どんどんいろんなことを覚えて、メンバーさんや常連さんにかわいがられて。駅前のファーストフード店でアルバイトも始めたんですけど、だんだん、学校もバイトも休んで雀荘にいる時間が長くなってきました」
そうなると、その雀荘から「どうせ打つならうちでアルバイトしない?」と声がかかるのは当然だ。
「え、俺でいいの? うれしいな、と思ってすぐにバイトに入りましたけど、あれが地獄の1丁目だったかな」
と振り返る。フリー雀荘は、慢性的に人手不足だ。勤務時間はどんどん長くなり、やがて大学を自然消滅的にやめてしまう。
当時は実家で、両親と妹と住んでいたため、それほど経済的に困っていたわけではない。しかし、勝ち負けが月々の収入に直結する生活では、貯金に回す金は手元に残らなかった。
人生の転機を迎えたのは24歳の時。高校時代から付き合っていた恋人との結婚話が持ち上がったのだ。
「彼女にしてみれば、もうすぐ25歳だから、どうせ結婚するなら早くしたい。結婚しないなら別れてほしい、という、ごく当たり前の気持ちだったと思います。俺も、ずっと彼女のことは大事にして来たし、『じゃあ結婚しようか』と、軽いノリで応じました。両親はすごく喜びましたね」
しかし結婚を前に、新田さんは婚約者の両親に呼び出される。
「結婚するなら雀荘のアルバイトではなくて定職に就くように、と言われました」