間もなく中堅のスーパーマーケットに見習社員として就職、妻の実家の近くにアパートを借りて新居を構えた。
「あのまませめて1年くらいあの生活が続いていたら、俺の人生はこうはならなかったんじゃないかなって思いますね」
結婚して約3か月後、見習いから正社員に昇格すると同時に、他県の店舗に配置換えになったのだ。通勤時間は片道2時間。
「夫婦で引っ越すことも考えましたが、まったく知らない土地に行くよりは実家の近くのほうがいいと思って通勤することにしました」
しかし、スーパーの仕事はきつい。まだ新人とはいえ社員なので、地元採用のパート主婦やアルバイト学生たちをまとめながら、売り場やお客にも気を配らなくてはならない。
往復4時間をかける通勤に、新田さんは、だんだん疲れを感じるようになる。
「そんなとき、スーパーの2つ先の駅に、フリー雀荘があるのを知ったんですよ。道でティッシュをもらったんだと思います。それを見たとき、『あ、俺は麻雀から遠ざかってるからこんなに疲れてるんじゃないかなあ』と思って、その日の仕事終わりに行きました」
久しぶりに訪れたフリー雀荘は楽しく「心が洗われるような気がした」と言う。
「通い始めたころは『これでまた頑張れる。ここで打つために仕事を効率よく終わらせよう』と、仕事に対する意欲もわいてくるような気がしたんですよね」
ところが、仕事終わりに半荘を2~3回打つ程度では、次第に物足りなくなり、だんだん家に帰らない日が多くなる。泊まるところはネットカフェや、勤務先の休憩室などいくらでもあった。
「勝ってるときは『勝ってるんだからもうちょっと打ちたい』と思うし、負けてるときは『このまま帰れるかよ』と思うんです。そして『どうせ12時間後にはまたこの辺にいるんだから、このままいてもいいだろう』という気になってしまったんです」
なかなか帰宅しない夫に、妻は「子供が欲しい。毎晩帰ってきてほしい」と泣きつく。
その結果「子供ができそうな日を教えてくれたら、その日ちゃんと帰るから」と告げ、それ以外の日はよけいに帰らない、という悪循環に陥ってしまった。
そんな生活が1年半ほど続いたころのことだ。新田さんが休日に家で寝ていると、いきなり妻の兄がアパートに入ってきて、荷物を一切合財、軽トラックに積んで運び出してしまった。
「何が起こったのかわからなくて、義兄につかみかかって、1発殴ったような気がしますね。蹴り飛ばされて、起き上がれないうちに全部終わっていました。俺はなんでこんな目にあうんだろうって、しばらく呆然としてました」
