「自動車にぶつかっちゃった」と子供から電話
こうして麻雀プロになり、子育てをしながら麻雀店で働いていた江梨さんに、ある事件が起きた。
子供(当時6歳)が、夜中に家出をしてしまったのだ。
「ちょうどある男性と別れて、母一人子一人の状態だったんです。それまで家の中にはずっと『大人の男性』がいたのに、2人になって寂しかったのか、私が気付かない間に出て行ってしまいました。
夜道を歩いていると近所の人が声をかけて警察に連れて行ってくれました。そこで『両親の名前は?』『お母さんのお仕事は?』などと聞かれ、答えたのですぐに私に連絡がありました。びっくりして迎えに行って、それ以来私は、家の鍵は中からも子供には開けられないように、チェーンロックに南京錠をつけるようにしました。そして、警察で『仕事は麻雀プロで、雀荘で働いています』という言葉を改めて口にして、もうオンレートで働くのはやめよう、と決意しました」
それでも、子供がいると心配の種は尽きない。
「ある日、小学校の運動会の代休だったんですけど、私は派遣の仕事があったので一人で留守番させていたんです。すると、子供から電話がかかってきました。『自転車に乗ってたら、自動車にぶつかっちゃった、ママごめんなさい』って。
私はとっさに『近所で自転車を乗り回してて駐車中の自動車にぶつけちゃったのかな、まいったな、相手の車の修理費いくらくらいだろう』などと考えながら、『ケガはないのね? 大丈夫ね?』と電話を切りました。
するとその直後に救急隊員から電話がかかってきて、『お子さんが信号無視して自動車と接触してしまい、病院に搬送中です』と言われました。すうっと血の気が引いていくような気がしましたね。すぐに実家に連絡を取り、母に駆け付けてもらい、私も病院に向かいました。
その途中、ちょっと気持ちが落ち着いてくると、子供は自分で電話をかけてくるくらいだからまあ大丈夫かなと思えるようになりました。むしろ、相手のドライバーは社用車で営業回りしていた中年男性と聞いて、『うちの子の信号無視のためにその人が仕事を失ったらどうしよう』なんて考えてました。自分がギリギリのところで生きていると、逆に相手のことも考えられるんだなあ、と後から思いました。幸い、大事には至らなかったです。とにかくもっとちゃんと教育しなくちゃ、と思いました」
