あの頃と、時代の空気感が似ている
――団地が舞台のドラマですが、主役のお話がきた時はどんな感想を持ちましたか?
佐野 尋常じゃない老人の役ですから、その意味では当然、26年前のマザコン男、桂田冬彦のことも頭に浮かびましたし、比べられるだろうことも覚悟の上、僕自身も意識しています。冬彦への挑戦ですかね? 人生でこういう強烈な役柄を、もう一度連続ドラマでやることになるとは思わなかったですけどね。
――巡り合わせだな、という印象ですか。
佐野 そうですね、時代の空気感もあの頃と似ているな、なんてことも思ったりしました。
――『ずっとあなたが好きだった』で冬彦さんを演じたのは1992年、平成4年のことです。
佐野 あの年は、いわゆるバブル崩壊直後で、経済も恋愛も生きる糧にならないのであれば、一体何を心の糧にして喜びを得たらいいんだろう……とか、それでも家族や共同体は必要なんだろうかとか、そういう時代のムードがあったと思うんです。冬彦の役は、そういう時代背景を探りながら演じていったつもりです。あれから26年、この2018年だってハラスメントの問題しかり、いろんな価値観が変わりつつあるし、国内外の情勢、経済、様々な不安定要因もあって決して明るい材料ばかりではないですよね。四半世紀の時間を経て、冬彦的なるものがまた復活するということは、大げさかもしれませんけど「歴史は繰り返す」という感じさえしています。
冬彦ってゴジラと一緒じゃないですか
――92年の流行語にはきんさん・ぎんさんの「うれしいような、かなしいような」もありましたが、「冬彦さん」も流行語に選ばれましたよね。
佐野 「冬彦さん現象」と呼ばれるような社会現象になったわけですけど、「冬彦=マザコン男」というキャラクターだけが一人歩きしてしまったことには、ちょっと思うところはあったんです。
――どういうことですか?
佐野 別にキャラクターを演じるために冬彦をやっていたわけじゃないんだ、という気持ちですかね。もちろん、物事がヒットするためにはわかりやすいキャラクターが必要かもしれません。ただ本当に大切なことは、なぜそのキャラクターとなって現れるかという、その背景だと思うんです。キャラクターでいえば、僕はあの時、冬彦という男は怪獣だと思って演じていたんです。
――冬彦さんは怪獣?
佐野 僕がゴジラファンだから言うわけじゃないんですけど、冬彦って、自分は何も悪いことしていないのに、母親の過剰な期待とか、自分ではどうにもできない環境によってああいう人格形成になって、周囲から化け物のように扱われてしまった人なんですよ。それって、ゴジラと一緒じゃないですか。そして、結婚相手が初恋の人に走って傷つけられ、溜まりに溜まったものを哀しみとともに一気に吐き出す。ただただ、正直に生きている人だと思う。でも、いつの時代も、正直すぎること、イノセントであることは世の中から怖れられ、排除され、葬られる運命にあるような気がします。社会にとってはその時代の価値観を崩してしまうかもしれない恐ろしい存在だから。
――冬彦=ゴジラ説! なるほど納得です。
佐野 もっと言いますとね、ゴジラの特撮監督・円谷英二はアメリカの怪獣映画『原子怪獣現わる』や『キングコング』に対抗するものを作ろうと考えたわけです。それは巨大タコのような怪獣という案もあったのですが、ゴジラを始め、その後の怪獣たちは日本の古代からの信仰の龍蛇信仰や山岳信仰を踏襲して……ってどんどんマニアックな話になっちゃうな(笑)。